葉山町は明治以降湘南を代表する別荘地として栄えてきた。最盛期には御用邸に代表される皇室や華族の別荘が建ち並び、小径を入ると今でも往時の風格を感じる地域もある。別荘地として栄えた町だからだろう、東海大学建築学科で建築史を教える小沢朝江先生の著書『明治の皇室建築 国家が求めた<和風>像』によれば、葉山町には町内に別荘建築に関わる職人達が多く住んでいたそうだ。
今回紹介する「風早茶房」も、改装前は別荘建築の棟梁であった矢嶋儀助が昭和元年に自宅とし建てた古民家である。昭和6年、国鉄の逗子駅(現在のJR逗子駅)から葉山御用邸を繋ぐ行幸道路(国道134号線)が開通した。「風早茶房」は、この通り沿い、京急バスの風早橋バス停近くに位置する。
1階はフローリングに改装されたが、欄間や付け書院、廊下側の油煙抜き障子と元の風情を感じられる。欄間や障子に使われる組子(釘を用いず木材を組合せる技法)など細部に別荘建築の棟梁らしい、細かい技巧が見て取れる。2階にはワークショップ等のレンタルスペースとして利用できる和室もあるそうだ。
カフェだけでなく、地場産の野菜を使った料理やお酒も提供しており、窯で焼いたピザが人気だ。今回は寒かったので、ジンジャーチャイを注文した。冬は、窓際のストーブに置かれたヤカンからゆったり登る湯気を眺めながら、味わう葉山の古民家で過ごす時間。是非とも体験いただきたい。
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