秦野市の中心部、秦野駅から歩いて5分くらいの本町エリアにある「Café いがらし」を訪ねた。通りから見ると、柱型、柱頭飾り、コーニスに意匠がこらせれており、いかにも昭和初期の近代建築で圧倒される。
一階の前面は全面ガラスの引戸になっており、カフェの案内がある中央の引戸を引いて店内に入った。土間コンクリートが打たれたミセの正面にカフェカウンターがあり、そこから店主が気さくに声をかけてくれた。
空いている席にどこでも座って構わないということなので、元々帳場であったであろう畳敷の小上がりの座敷に席を取った。
メニューはコーヒー・紅茶などのドリンクメニューが中心だが、パンケーキなどのスイーツやサンドイッチなどの軽食も揃っている。
その中から、紅茶とパンケーキのセットを選び注文をした。
外観はまるで鉄筋コンクリートつくりのようであるが、店内を見渡すと木の柱と梁が廻らされている完全な木造である。
店主によると、この建物はもともと荒物屋(雑貨店)を営んでいた「五十嵐商店」で、平成29(2017)年に国の登録文化財となっている。木造三階建でモルタル洗出し。関東大震災により多くの建物を焼失したこの付近では、道路拡幅に伴い復興の象徴として耐火性を意識した西洋古典様式やアールデコ様式などの影響を受けた建物が多く建築され、その代表的な建築のひとつであるとのこと。
熱心に話を聞いていると、「是非、2階や3階もご覧ください」とお声がけいただいたので、注文した品の準備を待つ間、遠慮なく見学させていただくこととした。
木の温かみが伝わる厚い踏板の急峻な階段を上る。ソファーや会議テーブルが置かれた2階の通り沿いには、縦に長い上げ下げ窓が並び、通りを見渡すことができる。窓にはまったガラスの揺らぎが建物の歴史を物語っていた。
そこからさらに3階に上がるためには、梯子のような鉄砲階段をあがる。3階の壁天井の大部分は漆喰で仕上げられており、灯具周りにはシーリングメダリオンの痕跡も見られた。これも後で店主に聞いたのだが、この漆喰の施工にあたっては、名工「伊豆長八」の弟子をわざわざ呼んで仕上げた、とのことであった。
見学を終えて席に戻るとちょうど注文した品が運ばれてきた。スフレ状のパンケーキにはフローズンベリーと生クリームがのっていて、さらにフルーツソースでデコレーションが施されていて、目でも食欲をそそられる。
パンケーキをフルーツソースに絡めて、紅茶と一緒にいただきながら、店主にカフェオープンの経緯などをきいた。
現在、この建物は秦野の平成30(2018)年12月に発足した「NPO法人秦野にぎわい創造まちづくり」がその活動拠点借り上げたもの。カフェは翌令和元(2019)年の7月にオープン。店主ごカフェの運営のほか日頃の切り盛りをしている。「2階、3階は会合やイベントにも貸出しており、持ち込みも可能なので、是非、秦野観光の拠点として使ってもらいたい。」とのことだったので、再訪を約束して、会計を済ませて店を後にした。
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