開成町北端の金井島地区は、縦横に張り巡らされた水路を活用した水田と畑地が広がっている。その一画に遠くからも目立つ大きな屋敷林に囲まれた屋敷が瀬戸屋敷である。
瀬戸屋敷は、もともとこの地区の名主職を代々務めてきた瀬戸家の屋敷で、 築300年の歴史を持つ。平成13(2001)年に所有者から開成町に寄贈され、開成町指定重要文化財第1号となり、その後大規模な復元工事等を経て平成17(2005)年に「あしがり郷 瀬戸屋敷」として一般公開された。
平成27(2015)年に「あしがり郷拠点整備基本計画」を策定し、この施設を拠点として地域活性化を目指す開成町は、平成29(2017)年から3年間の指定管理者を募集し、都内のコンサルタント業「オリエンタルコンサルタンツ」が選定された。「オリエンタルコンサルタンツ」では、社員2名が開成町に移住し、地域活性化に資する事業を積極的に展開している。café haccoもその一環で、もともと園内にあった観光案内所を改装し、平成29(2017)年10月にオープンした。店名は、発酵食品の「はっこう」と、開成・足柄地区の魅力を発信する「箱」という意味が込められている。
瀬戸屋敷に正面の門から入ると敷地の周りを囲むように流れる用水路とそれを利用して回る水車が出迎えてくれる。正面に大きな寄棟茅葺屋根の主家があり、左手には築山のある枯山水庭園、右手に「café hacco」という配置になっている。
カフェに立ち寄る前に、まず主屋を見学した。
主屋は、ニワ、ドマ、ミソベヤの三和土、オカッテ、ヒロマ、チャノマの板の間の生活空間、オネマ、ヨジョウ、オンナベヤ、オク、ゲンカンの畳部屋で構成されていおり、オクやゲンカンからは、武士を接待するための客座敷の様子がわかる。主屋全体の規模も63坪と県内でも有数の規模である。
主屋の裏側に回ると、渡り廊下で土蔵につながっていた。この日は、貸し切りでコンサートが行われており、内部の見学はできなかったが、戦後の農地解放まで米蔵として使われ、約600俵を収容していたとことからその規模が窺われる。
中庭には早咲きの桃や桜が満開、土蔵の裏手の竹林も散策路となっていて建物以外にも見所が満載である。
一通り瀬戸屋敷を堪能した後、いよいよカフェに向かう。店内は観光案内所を改装したとは思えないくらい、垢抜けた空間で高い天井まで伸びるて大きな開口部から主屋が見える。
こだわりのメニューから、「食べる豆乳甘酒」「酒粕バター」「スコーン」「みりっぷ(みりんを煮詰めたシロップ)」「み季節のジャム(今回はいちごジャム)」がセットになっているい「食べる発酵プレート 」と「屋敷のブレンドコーヒー」をオーダーした。
今回は、天気が良かったので外のテーブルに席をとって注文の品が届くのを待ったが、瀬戸屋敷内にカフェメニューを持ち込むこともでき、思い思いの時間を過ごせるとのこと。
しばらくするとオーダーしたプレートが運ばれてきた。スタッフがプレートに乗っている食品一つ一つを丁寧に説明してくれた。
まず、砂糖不使用という「食べる豆乳甘酒」をスプーンですくって口に運ぶと、優しい味の甘酒がおぼろ豆腐のようなクリーミーな食感で口に広がる。
ほのかに酒粕の香りがする「酒粕のバター」と「いちごジャム」をスコーンに挟み、「みりっぷ」をたっぷりたらして一気にみりいただいた。優しい甘さがスコーンの味を引き立てて美味だ。ここのメニューの発酵食材の多くは、をすぐそばにある瀬戸酒造店の米麹を使用し、生きたままの麹菌を含んでいる。
瀬戸酒造店は、慶応元(1965)年創業の地元の老舗酒蔵。昭和55(1980)年に自家醸造を中断。しかし元々「オリエンタルコンサルタンツ」でた地域創生の担当者(元々は橋梁設計の技術者)が蔵元と会社を説得して小会社化、移住したうえで自ら社長となって、醸造所と井戸を一新し、平成30(2018)年から醸造を再開した。これらの展開は、瀬戸屋敷の指定管理と合わせて新たな地域活性化のモデルとして注目されている。食後にオリジナルの「屋敷のブレンドコーヒー」をいただき、席を立った。
門を出ると右手に、令和2(2020)年にオープンした、発酵と旬野菜をテーマとするアトリエ&ショップ「アトリエハッコ」があったので立ち寄った。「アトリエハッコ」はオリエンタルコンサルタンツの指定管理が継続となったのを機に地域交流を目的に整備された。地元で採れた旬の野菜と東京農大と共同開発した発酵食品、陶芸作品などが売られており、見ているだけでも楽しい。
是非、一度、開成町の名物「紫陽花」の時期にでも訪れていただき、地域創生の新しい形を肌で感じ取っていただきたい。
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