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[歴飯_83]㠀舎(TO-U-SHA)


江ノ島の上部、サムエル・コッキング苑から岩屋方面に向かって歩く、山ふたつを過ぎ、海苔羊羮が有名な中村屋前の石段を上がって行くと、奥津宮の境内に入る手前に赴きある古民家が見えてくる。「㠀舎」の建屋は、大正末頃に建てられ、以前は民宿等として使用されてきたそうだ。屋根の瓦には、いつ付けられたものだろうか、「○に宇」と書かれた屋号が記されている。建屋の造りは、屋根下から大きく店外側に張り出す桁により、軒下空間と大きな間口(出入り口)を確保する「出桁造り」と呼ばれる様式のようである。この様式は関東圏の商家等でよく見られる伝統的な様式である。一見すると、ガラス戸上の胴差し(2階床や屋根を支える横架材)は、途中で継手(接合部)を設けない、1枚板の木材であり、外観のアクセントとなっている。



店内に入ると、手前に土間が広がり、右手にキッチン、左手にアンティーク雑貨の販売スペース、一段上がった板の間と更に一段上がった小上がりが客席となっている。客席に沿って横一例に連なる窓から外を眺めると、木立の間から覗く海の景色が目に飛び込んで来た。店主が自らデザインしたという店内は、一見素朴だが、島の景色を際立たせ、どこか懐かしく、とても居心地が良い。



メニューは、しらす三色丼や煮魚定食のほか、衣に海苔をまぶした鳥の唐揚げ等何れも気になるものばかりだったが、海鮮寿司丼を注文した。羽釜で炊いた御飯に、脂の乗った刺身が溶け合って、見た目も美しく、 美味しい。一緒に添えられたシジミの味噌汁、トロの角煮が優しい味わいで、ついつい箸が進む。こうなると他のメニューも気になってきた。この日は夜も営業していると聞き、夕食に再訪を決めた。



シーキャンドルのライトアップで賑わうサムエル・コッキング苑を脇目にこの日2回目となる「㠀舎」を訪ねる。夕闇にガラス戸から漏れる光が良い雰囲気である。店への道すがら、海面から吹き上げる12月初頭の海風にすっかり身体が冷えてしまっていたが、案内されたストーブ脇の座席に腰かけると、ストーブからじんわりと熱が伝わってきた。




今回は昼に食べていなかった鳥の唐揚げのほか、揚げ餅、おつまみの盛合せ、炊き込みご飯の焼きおにぎりを注文した。海苔が香る鳥の唐揚げは周りはサクサク、中はジューシー、頭から丸ごと食べられる魚の唐揚げや佃煮、トロの角煮、サザエの煮物、お刺身の乗ったおつまみの盛合せはどれもお酒によく合う。豆の炊き込みご飯に味噌が塗られた焼きおにぎりは、優しい味わいでセットのシジミの味噌汁と合わせて締めには最高の組合せであった。 店主によると、「㠀」の字は「島」や「嶋」と同じ意味を持つ異体字で、店名の「㠀舎」には、「島の家」という意味が込められているそうだ。 江ノ島に行くときには、自分の家に帰るように、再訪したいと思わせる素敵な場所であった。







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