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[コラム]発見された近代遺構【The Heritage Times YOKOHAMA KANAGAWA】



幕末に始まり、明治維新以後、急速な近代化を遂げた日本。鉄道、上下水道、ガス、電気、通信など現代を生きる我々の生活の多くは、近代化の礎の上に成り立っていると言っても過言ではないだろう。近年の国内の動きを概観すると、「近代」という時代への関心は高まりを見せている。経済産業省では、国内の近代化に寄与した産業、交通、土木等に関する遺産を有益な資源として地域の活性化に役立てることを目的に、平成19(2007)年より、「近代化産業遺産」の認定を開始した。平成27(2015)年には、「明治日本の産業革命遺産-製鉄・製鋼、造船、石炭産業」が世界文化遺産に登録され、一躍「近代」という時代が着目されるようになる。平成30(2018)年には、「明治150年記念事業」の一環で、大磯町にあった大隈重信や陸奥宗光、伊藤博文らの旧宅(別荘)を「明治記念大磯邸園」として整備することが閣議決定され、その一部が公開を始めている。また、令和3(2021)年には、近代日本資本主義の父「渋沢栄一」がNHK大河ドラマに取り上げられたのは、記憶に新しい。

しかし、東京や神奈川は大正12(1923)年に発生した関東大震災により大きな被害を受けており、大震災以前に建てられた施設の多くは現存していない。また、太平洋戦争下の空襲による被害もあり、「近代」という時代に身近に触れられる機会は決して多くはない。

一方で、横浜市等では、今も工事中に地中から大震災以前の遺構が発見されることがあり、貴重な歴史資産として保存されている例もある。今回は工事等で発見された「近代遺構」を紹介すると共に、その保存活用と展望について、考えてみたい。


【旧横浜税関事務所遺構】

連日多くの来訪者で賑わう横浜赤レンガ倉庫の裏手にひっそりと佇むレンガ造の遺構がある。横浜税関の事務所棟として大正3(1914)年に建設されたレンガ造3階建ての建屋でガス暖炉、白熱電灯、給水管を備えた最新鋭の施設であったが、関東大震災で倒壊し、再建されることなく、埋め戻されていた。「赤レンガパーク」を整備した際に発見され、横浜港の歴史を伝える遺構として保存されている。



【横浜税関遺構 鉄軌道及び転車台】

日本大通りから象の鼻パークに入り、復元された象の鼻の護岸に向かう手前の床面に強化ガラスで地中を公開している一画がある。象の鼻地区は、かつて横浜港における貿易の中心部であり、荷揚げされた、輸出される物資が次々に倉庫から出入りしていた。強化ガラスで地中で公開されているのは転車台で、明治20年代後半に整備された岸壁から横浜税関の輸入上屋へ物資の運搬を担っていたものである。平成20(2008)年に横浜開港150周年を記念して整備された象の鼻パークの工事中に発見され、同地にて保存公開されている。



【ブラフ80番メモリアルテラス】

横浜山手西洋館の1つ「エリスマン邸」の裏手にレンガ造の遺構がある。この遺構は、大震災前の西洋館(マクガワン邸)の地下室部分である。遺構の痕跡から浄化槽や鉄棒による補強が見られる等、当時としては先端的な建物であったことがわかる。もともと元町公園内の広場に整備する予定地だったところで発掘され、昭和59(1984)年に発掘調査が行なわれた。調査結果を受けて、大震災前の山手西洋館を知ることができる貴重な遺構であることから、周囲にテラスを整備し、保存されている。所在がかつての山手町80番地あたることから、ブラフ80番メモリアルテラスと呼ばれている。



【サムエル・コッキング温室遺構】

江ノ島の最上部にあるサムエル・コッキング苑はかつて、骨董や植物商を営んだサムエル・コッキング氏が江ノ島神社の供御菜園を譲り受け、明治13から15(1880から1882)年にかけて整備した別荘と和洋折衷の庭園であった。地下に水槽やボイラー室も整備され、当時は東洋一の温室とも言われた。関東大震災で倒壊し、消失したと思われていたが、平成14(2002)年に藤沢市が江ノ島植物園再整備工事を行った際に発見され、貴重な歴史資産として保存されている。令和3(2021)年には、サムエル・コッキング苑内に新たに「温室遺構展示体験棟」が整備され、煉瓦の遺構を傷つけないように、高床にした全面ガラス張りの展示室内からもレンガ造の遺構を眺めることができる。また、シーキャンドルのイルミネーションに合わせて夜間公開もされている。

なお、サムエル・コッキング苑内のリニューアル事業については、現存藤沢市によるクラウドファンディングが行われている。



これらの遺構は、関係者の協力や尽力もあり幸いにも保存・公開されてきたが、施設整備工事の過程で発見された場合、設計変更が発生し、保存に掛かる費用的負担等から保存に至らないケースも少なくないだろう。

一方で、こうした近代遺構は観光やまちづくり拠点としての可能性もあるのではないか。先述したサムエル・コッキング温室遺構はシーキャンドルのライトアップに合わせて体験棟やレンガ造の遺構もライトアップされ、来場者の関心を集めている。また、JR高輪ゲートウェイ駅付近の工事中に発見された日本最初の鉄道を通した「高輪築堤」は国の史跡に指定され、一部を現地保存した上で、街づくりと両立しながら生かしていく検討が進められている。



〈参考文献〉

・『都市の記憶 横浜の近代建築Ⅰ』 横浜市・横浜市歴史的資産調査会

・『都市の記憶 横浜の主要歴史的建造物 改訂第6版』 (公社)横浜歴史資産調査会

・『西洋館とフランス瓦-横浜生まれの近代産業』 横浜都市発展記念館


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