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[歴飯_95]久右衛門邸



横浜市戸塚区名瀬は、かつて九十九の谷戸があったと言われ、谷戸毎に小さな集落や田畑が点在していたそうだ。「谷戸」とは、3方を丘陵や台地に囲まれた地形のことであり、湧水や丘陵からの沢など水の確保がしやすく、古来から人々の定住地となってきた。今では珍しいものとなってしまった谷戸と人々の日々の営みがつくる里山の風景を探して、蛍が舞う様子から「光る久保」と呼ばれた「名瀬の谷戸」を訪ねた。



JR横須賀線東戸塚駅から緑園都市駅行きのバスに乗り、栄橋の停留所で降りる。山あいに向かう小径を上がると、今回の目的地「久右衛門邸」の門が見えてくる。店名の「久右衛門」とは、所有者一族の当主が代々受け継いできた名前とのことである。約600坪の広大な敷地には、幕末まで遡る古民家や竹林、田畑、栗林、池等が点在しており、春には鶯のさえずり、夏には蛍、秋には紅葉、冬には凛とした竹林の緑と四季折々の自然が楽しめる場所となっている。敷地内は、ボランティアグループによる竹林整備や小学校の体験学習の場になっており、里山の風景を介した多世代交流の拠点としても活用されている。



門を入ると、正面左手、かつては母屋であったであろう古民家がレストランとなっている。かつては3階建てであり、大正時代まで2階で養蚕業も営んでいたそうだ。玄関を潜ると、正面に2階に続く梯子がかかっており、当時の名残りが見られる。幕末から大正時代頃までは、横浜市内郊外部でも養蚕業や蚕糸業が営まれていたが、こうした歴史を身近に感じられる場所は貴重だと思う。黒光りする柱や梁からは、幕末から現在に至るまで建物が重ねてきた長い歴史を感じる。座敷から庭越しに見える納屋では、今後カフェやチョコレートの販売も始めるそうだ。中に入ると、屋根裏と小屋組みがオープンになっており、かつて茅葺きであった名残も見られる。



今回は全5品のランチコースを注文した。

前菜は、シェパーズパイ、初カツオのカルパッチョ、モッチァレラチーズのブラマンジェが提供された。カツオのカルパッチョのソースはガーリック風味で食欲をそそられる。続いて里山の一品として、新じゃが芋を使った和風ジャーマンポテトは、旬の食材であるじゃが芋の旨味をしっかり感じる一品となっていた。



この日のメイン大山どりの香草パン粉焼きは、マスタードソースとの相性が良く、添え物の夏野菜やエディブルフラワーと合わせて目でも楽しむことができた。デザートには、紅茶のブリュレ、プラムの爽やかな香りがするアイスクリーム、ブラッドオレンジのゼリー、バナナのパウンドケーキと盛りだくさんで、充実したコース内容であった。提供される料理には敷地内で収穫した野菜や果物等が使われているそうなので、季節を変えて訪れてみたくなる。



食事の合間では、店主による建物の歴史等の紹介、食後には敷地内の簡単なガイドツアー(希望者のみ)も開催され、五感で「久右衛門邸」の魅力を感じることができた。

ここは、社会福祉事業所が営む就労支援の場として開業しており、古民家活用の新たな可能性を感じる場となっていた。





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