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[歴飯_115]西御門サローネ 喫茶室



連日多くの観光客で賑わう鶴ケ岡八幡宮を過ぎ、横浜国立大学付属小中学校に至る一帯はかつて、源頼朝が大蔵幕府を設けた地であり、西門のあった場所が「西御門」という地名として残っている。横浜国立大学付属小中学校の敷地に沿って山側の住宅地に入っていくと、閑静な住宅地の一画に庭に大きな棕櫚の木を持つ洋館が見えてくる。「西御門サローネ」は、『極楽とんぼ』等の代表作で知られる小説家 里見弴(本名:山内英夫))の自邸として大正15(1926)年に鎌倉市西御門に建てられた。里見自らが設計に携わったそうで、随所に趣向を凝らした建物となっている。



例えば、玄関ポーチの基壇部に使われた大谷石や凹凸の付いた柱、幾何学図形を取り入れた意匠は大正12(1923)年に竣工した旧帝国ホテルの特徴ともよく似ており、同時期の建築としては、早い時期にF.L.ライト(旧帝国ホテルの設計者)の影響を受けた意匠を取り入れている。玄関ホールに入ると向かって左手に六角形の小窓と庭の緑を取り入れる大きな窓が設けられており、木漏れ日の射すホール内が味わい深い。向かって右手はかつて食堂として使用されていた広間となっている。中央の大テーブルには喫茶室で提供されている洋菓子が並べられており、晩餐会に招待されたような気分になる。広間に連続して設けられたサンルームは、庭に面して網戸枠、その内側にガラス戸が付く2重構造となっており、ガラス戸を開けると庭から吹き込む風が心地良い。



サンルーム内の席に着き、オリジナルブレンドコーヒーとビクトリアサンドイッチケーキを注文する。ビクトリアサンドイッチケーキは、しっかりとした生地の間に酸味の効いたイチゴとラズベリーのジャムがたっぷりと塗られており、口いっぱいに広がる芳醇な香りが癖になる。脇に添えられた生クリームを合わせると、さらに贅沢な味わいとなるのも嬉しい。オリジナルブレンドは、少し苦みを効かせた深い味わいとなっており、ケーキとも良く合っている。この他スコーンも人気とのこと。洋菓子は季節によって変更となるそうなので、次回の訪問が楽しみである。



カフェタイムを楽しんだ後、店主に邸内を案内していただく。里見の転居後、GHQによる接収やホテルとして利用された時期もあったそうだ。玄関ホールから続く赤絨毯はホテル時代の名残だそうだ。2階に続く階段の途中から、昭和4(1929)年増築された和館に向かう。和館は、高床で茅葺屋根を持つ数寄屋建築であり、里見が棟梁であった高橋久次郎、下島松之助らと相談しながら設計を進めたようである。欄間部分に設けられた櫛型の気抜き、廊下天井の異なる数種の木材を使った仕上げ等、洋館同様随所に拘りを感じる。こうした建築的価値等が評価され、平成6(1994)年には洋館・和館共に鎌倉市の景観重要建築物等にも指定されている。



この建物は、現所有者から借受け長らく設計事務所として使用されてきたが、平成20(2008)年より、「西御門サローネ」として一部の一般公開やスペース貸しを開始し、令和4(2022)年5月より、木~日曜日(貸し切りや臨時休業等もあるので、詳細はホームページ等で確認いただきたい)で喫茶室もオープンしている。鎌倉の歴史ある洋館にて100年の歳月を経て紡がれてきた時間と美味しいケーキを味わってみてはいかがだろうか。





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