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[歴飯_67]濱時間Cafe


夏になれば毎年賑わいを見せるサザンビーチ茅ヶ崎から程近い茅ヶ崎市南湖のほぼ中央にある「濱時間」を訪れた。老舗仕出し弁当屋「濱田屋」の調理場跡をリノベーションしてつくられた、貸別荘、カフェ、ショップ、貸しスペースが一つになった施設である。

町屋風になっている正面の入口から入ると、古道具や作家ものの食器、着物のリメイク服などが販売されるショップになっており、その奥がカフェになってる。いちばん奥はキッチンカウンターになっており、その手前にテーブルが並んでいおり、10人ほどが座れる。キッチンカウンターから少し離れた席を選んで座った。昼時であったために、席ににはすでにランチメニューが置かれていた。この日のラインナップは「濱時間ドライカレー」と「茅ヶ崎しらすの和風パスタ」「オム・ナポリタン」「サラダピザトースト(しらす又はソーセージ)」。いずれもコーヒー付き。その中から「濱時間ドライカレー」を選び、メニューに「お食事の方、ご一緒にどうぞ」とあったデザートメニューから「小さいクリームみつまめ」と合わせてオーダーした。



店内は中庭に向けて大きな開口部が広がっていて明るい。店の方に勧められ注文の品が出来上がるまでの間、中庭を見に外へ出た。中庭に出たところでオーナーに「どうぞ貸別荘の中もご覧ください。」と優しく声をかけられたので、遠慮なく上がらせていただいた。

キッチンやベッドルームは機能的にリノベーションされていたが、中庭に続いている日本庭園に面した和室はオーナー居宅であった当時の様子をそのまま引き継いでいる。この建物の施主は先程声をかけていただいたオーナーの先代とのこと。舟天井や床の間の造りから、先代の建物に対するこだわりが見てとれる。聞けば「日本各地の職人に声をかけていた」とのこと。納得の仕上がりである。

この和室から見る日本庭園は日本庭園の見どころがコンパクトにまとめられ、造りこまれていて、派手ではないが季節の花々や樹々の移り変わりを楽しめる。美しい。この貸別荘を借りて、ここでまったりと庭を眺めているだけで癒されそうだ。



庭から戻ると、間も無くして注文の品が届いた。大きな深めの器に五穀米とドライカレー、火が通って艶々したトマト、ズッキーニ、パプリカ、たっぷり目のフライドオニオン、そして茹で玉子がトッピングされている。カレーは、マイルドで癖のない優しい味。すうーっと喉を通っていく。リノベーション前の様子を巧みに残している店内や中庭の様子を交互に見ながらゆっくりと食べ終えた。

「濱時間」がある南湖エリアは、明治31(1898)年の茅ヶ崎駅の開業により、温暖な気候と穏やかな環境を求め、「東洋一」のサナトリウムと呼ばれた南湖院を中心に、湘南有数の別荘地、保養地して発展してきた。町を歩けば、昭和初期の別荘地の面影を見ることができる。濱時間もその中でも中心的な役割を果たしていくのではないだろうか。



ドライカレーを食べ終えた頃を見計らって、コーヒーとデザートのクリームみつまめが運ばれて来た。

クリームみつまめはは紫陽花の季節にあわせた彩となっており、トッピングされた小さな金平糖の歯応えがアクセントになっている。季節が梅雨時に近づく鬱陶しさを晴らしてくれるような爽やかな味であった。



コーヒーを飲みながらもう一度、中庭に目をやる。もともと厨房一部であった場所を、リノベーションの際に、屋根を取り払い減築し、代わりに鉄骨のフレームを組んで、明るい中庭に生まれ変わらせている。シンボルツリーのユーカリを中心にオブジェやブランコが配されていて、人の集まりやすさや居心地の良さに配慮が行き届いた空間になっている。

床面は厨房当時のままタイル貼りが残されている。厨房機器や水道管の痕跡も見ることができ、当時の記憶を今に伝えている。



会計の際、カウンターキッチンに備えられたレジの横にキリンがスッと立ち上がったティンガティンガの絵が飾られていたので、気になって店主に話を聞くと、以前貸別荘に長期滞在していたティンガティンガ作家がこの建物をテーマに描いた作品を贈ってくれたもので、店内にはもう数点飾られているとのこと。よく見ると、絵の中に中庭のシンボルツリーであるユーカリが描かれていた。アフリカから来たアーティストにとっても、この中庭の景色が癒しになっていたに違いない。

会計を済ませ、オーナーの「せっかくこれだけの庭と建物を受け継いだのに、売ってしまって壊すのは惜しい。二度と造れないのですから。」という話しを思い起こしながら、帰路についた。







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