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[歴飯_75]二坪喫茶アベコーヒー



東急田園都市線溝の口駅・JR南武線武蔵溝ノ口から国道246号線方面に向かい、旧大山街道をとの交差点を左に曲がったところに、築90年を超える旧診療所兼住宅をリノベーションしたシェアオフィス・レンタルオフィス「nokutica/ノクチカ」がある。

今回、訪問した「二坪喫茶アベコーヒー」は、この「ノクチカ」の1階に店を構えているスタンドコーヒーである。

昭和初期の西洋館の特徴を備えた建物の玄関口の右側にある上下窓が注文口となっている。窓の奥から店主が「いらっしゃいませ」とにこやかに声をかけてくる。この日は、大雨のあとで少し蒸し暑かったので、前に置いてある看板に書かれているメニューから「水出しコーヒー」選んで注文した。「今日の水出しコーヒーはマンデリンなので、今日みたいなぴったりですよ」と、笑顔で答えてくれる。



「二坪喫茶アベコーヒー」は、スタンドコーヒーなので、テイクアウトするか建物周りのベンチや庭でいただくのが基本であるが、この日は、「ノクチカ」のレンタルスペースが空いており、そちらを利用することができるとの案内があったので、そちらでいただくことにした。飲物はそこまで運んでくれるという。

シンプルな軒飾りが廻されたポルティコのついた玄関扉を引くと小上がりの玄関にシェアオフィスの受付があり、そこで下足を脱いで上がる。

玄関をあがると、そこから「二坪喫茶アベコーヒー」の店舗内を覗くことができる。「二坪」の名の通り、コンパクトなスペースの中で、店主がテキパキと動き回っている。

案内に従って、廊下を通って一番奥の部屋に向かい、通り沿いの窓際の席に座った。窓の外には旧大山街道の往来が見える。



溝口は大山街道が矢倉沢往還として整備され、東海道の脇往還として利用されるようになり、寛文9(1669)年には幕府により、二子村と共に宿駅に指定されたことによって発展を遂げた。その後、昭和2(1927)年には、南武鉄道(現在の南武線)川崎〜登戸間の開業とともに武蔵溝ノ口駅が、玉川電気鉄道溝ノ口線(開業当時は軌道線、現在の東急田園都市線)が開業とともに溝ノ口駅が設置されたことにより、さらに発展を遂げ、川崎市では川崎駅前に次いで商業地地価が高い地域となった。近年では、駅前再開発も行われて、ペデストリアンデッキで両駅が結ばれるなど、さらに利便性を高めている。

この建物は、昭和初期に診療所として建築され、その後、学習塾や下宿などに利用された後、しばらく空き家になっていたとのことである。宿駅時代の名残を残していた昭和初期の様子から、現在までの街道沿いの風景の変化を眺めながら、ずっとこの場所でたたずんでいたのであろう。



しばらくすると、水出しコーヒーが運ばれてきた。運んできた店主が「この部屋は、元々診察室だったんですよ」と教えてくれた。

通りに面した角部屋二面には大きな上下窓が並んでいて、天井にはシーリングメダリオンが二つある。部屋の大きさに対して、二つも灯具の痕跡があるところが、もしかすると明るさを求めた診察室の名残なのかもしれない。

金物の上下窓から光が差し込んで、コーヒーを琥珀色に輝かせた。一口飲むと、酸味が抑えられコクのある味が口の中に広がった。ゆっくりと冷たいコーヒーを楽しませていただき、席をたった。

高層ビルが立ち並ぶ近代的な街に発展した溝口。その街中で、街道の歴史を今に伝える歴史的建造物で味わうコーヒー。レンタルスペースもあわせて是非体験していただきたい。





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