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[レポート] 第12 回 藤沢今昔・まちなかアートめぐり2021【藤沢今昔まちなかアート実行委員会】



旧東海道藤沢宿で12/5まで開催されている「第12 回 藤沢今昔・まちなかアートめぐり2021 」に参加した。まちなかアートめぐりは、旧藤沢宿にあるいくつかの歴史的建造物を会場としてアート作品を展示し、その会場をめぐるイベントで、2010年にアーティスト有志によって始められた。

2021年、12 回目となる今回は、新型コロナウイルス感染症の収束までの道筋が未だ定かではない状況下での開催であるため、2010 年の開始以来たびたび行ってきた海外アーティストの招致やシンポジウム等は見送られた。一方、新たに桔梗屋店蔵 ( 国登録有形文化財 ) が会場に加わるなど、イベントとしての展開の広がりを見せている。

今年のテーマは、この現代アートと歴史的遺産との出会いによる探究、研鑽と次世代に向けた歩が、私たちの回復力を高めることことを願って「resilience(レジリエンス=回復力」)としている。



<蔵まえギャラリー・ふじさわ宿交流館>

藤沢駅から最寄りの関連事業会場、「ふじさわ宿交流館」に向かう前に、通り道にある「蔵まえギャラリー」に立ち寄った。「蔵まえギャラリー」は昭和6(1931)年に建てられた榎本米穀店の母屋と内蔵を使って、平成18(2006)年から運営しているアートスペースである。

この日は、湘南vividアートのセレクション展を開催中であった。1階の土間・小上がり・和室・蔵では所狭しとアールブリュットの雰囲気が漂う作品が並んでいた。スタッフの佐野晴美氏が忙しい中、会場の案内をしていただいた。

一通り作品を見せていただき、12月以降の「蔵まえギャラリー」なども伺い、次の「ふじさわ宿交流館」に向かった。

旧東海道藤沢宿の歴史、文化に親しむ機会を提供するとともに、地域住民や来訪客の交流の場として、平成28(2016)年に開館した施設。この日は「まちなかアートめぐり2021 」に合わせて、活動記録写真の展示があったはずなのだが、模型など充実した藤沢宿関連の展示に見入ってしまってうかつにも見逃してしまった。

「ふじさわ宿交流館」を出て、国道467号線をわたり白旗交差点方面の次の会場「旧稲元屋呉服店」に向かった。




<旧稲元屋呉服店>

通りから奥に伸びている細い路地を抜けるとその奥に整えられた庭園と蔵2棟が見えてくる。

稲元屋呉服店は江戸末期弘化2(1844)年創業の呉服商・雑貨薪炭商で、明治から戦前にかけて、現在の百貨店的な機能も有した大店であった。街道に面した母屋兼店舗は昭和52(1977)年に焼失してしまったが、庭園跡と2つの蔵が現存している。外(南)蔵は明治中期に建てられた食料用の土蔵。内蔵の南に東面して並び建つ。桁行三間梁間二間、土蔵造二階建、切妻造鉄板葺。外壁漆喰塗で鉢巻を廻らし、腰を鼠色とする。内部には関東大震災後に多数の筋違や金物が付加されて震災復旧の様子を窺うことができ、また藤沢宿の土蔵の古例としても価値がある。平成27(2015)年国の有形文化財に登録された。




内部には、佐々木薫氏の作品が置かれていた。1階には「風が吹く」と題された竹とワイヤーが蔵の中に吹き込む風のように構成されたインスタレーション。2階には氷の結晶の形に切り抜かれたトレーシングペーパーがテグスで天井から無数に吊るされているのだが、中央のガラスの器と共鳴し、静かにしんしんと降る雪が、蔵の中の時の流れを止めているようだ。

内(北)蔵は震災後の昭和10(1935)年頃の建築と見られ、内蔵構造で家財が収められていた。切妻造で銅板葺、軒の鉢巻きや軒飾、むくりのある庇などの意匠が凝っている。桁行三間半梁間二間、切妻造銅板葺で蔵前を付ける。外壁を人造石洗出し及び研出し仕上げとして石造風に目地を切り、妻面の窓は扉廻りや庇を黒漆喰塗として立面を引き締める。外蔵と同様、平成27(2015)年、国の有形文化財に登録された。




内蔵には福家由美子氏の「バランス」と名付けられた作品。微妙なバランスを表現している作品が、まるで旧来からある蔵の魔除やお守りのようで妙にマッチしているように感じて面白い。

庭で流れる加藤裕士氏の音によるインスタレーションを聞きながら、次の会場「桔梗屋店蔵」に向かった。


<桔梗屋店蔵>

桔梗屋は、旧東海道藤沢宿で茶・紙問屋を営んだ旧家である。土蔵造の店蔵は、明治44(1911)年の建築で、黒漆喰仕上げで1階に重厚な観音開きの塗籠戸を吊るなど、優秀な左官技術を今に伝える貴重な建築物として、平成25(2013)年、国の有形文化財に登録された。

店蔵の中に入ると、早速、正面に厳つい陶器でできた龍の鎧(ASADA氏の作品)が迎えてくれた。奥の小上がりには屏風に書かれた水墨画の「大山霧景色」をはじめとした絵画作品が置かれている。作者の坪井美保氏が丁寧に解説してくれた。




桔梗屋の外では、藤沢市がイベントに合わせて実証実験としてキッチンカーと野菜販売を行っている。この日のキッチンカーは、ロコモコ、ローストビーフ丼の「GUARD FOODTRUCK」とカレーの「日乃屋カレー」が出店していたので􏰆􏰇􏰇􏰄􏰈􏰃􏰁「日乃屋カレー」の名物メンチカレーをいただいた。こうした歴建造造物の活用に向けた取組との連動も、このイベントの重要な役割なのかもしれない。ボリューム満点のカレーを完食し、最後の会場「関次商店」に向かった。



<関次商店>

関次商店は明治6(1873)年創業の米穀肥料商である。先に入った肥料蔵は、明治40(1906)年建築で、木材で軸を組み、外壁に鎌倉石を張る混構造となる。内部の荷摺木の技法は穀物蔵と同様に半割丸太を各柱間に横方向に入れ込んで荷摺木とする。また関東大震災後、背面側にオロシと呼ぶ下屋を設けている。キーストーンや屋号の彫刻などに特徴を持つ。穀物蔵と同じく、平成28(2016)年、国の有形文化財に登録された。

この内部には、伊東直昭氏の「けものたてもの」の展示が並べられている。大きなものから小さなものまで、佇みながら語りかけてくるようなオブジェが可愛い。




隣接する明治19(1886)年建築の穀物蔵は、旧東海道に北面する敷地の南端に位置する。桁行九・一メートル梁間五・五メートルの建ちの高い平屋建土蔵で、和小屋を架ける。内部は半割丸太を各柱間に横方向に入れ込んで荷摺木にするという、独特な工法を使っているのは、大壁を裏返ししない技法も米穀の保存用に調湿性に配慮したものと推察される。

現在は、天然酵母ベーカリー「関次商店 パンの蔵 風土」 の店舗として使われている。この建築物も平成28(2016)年、国の有形文化財に登録された。

促されて店の扉を開けるなり、パンの良い香りに包まれるが、すぐに右手の階段で2階に上がると、オノ・ヨシヒロ氏のイラストレーション作品が並べられていた。ポップでライブ感のある表現で現在の藤沢を表しており、このアートイベントの総括的な作品にも思える。

歴史的建造物とアートの組み合わせは相性が良いのか、全国各地で行われているが、「第12 回 藤沢今昔・まちなかアートめぐり2021 」のように、アーティストの発意で始まり、アーティストの手によって12回も続いているアートイベントは貴重だ。今後とも、この取組が継続されることを期待しつつ、会場を後にした。





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