寄木細工や小田原提灯に代表されるように、小田原は古くから職人の町として発展してきた一面を持っている。小田原駅から程近い栄町には、かつて大工の棟梁や職人達が居を構えた大工町と呼ばれた地域がある。今回紹介する「nico cafe」は、そんな大工町の近くに位置する築約100年の旧建具屋を、建築デザイナーの店主が改修した店舗である。小田原市の歴史的風致維持向上計画に基づく歴史的風致形成建造物にも認定されており、隣の長屋と道路を挟んだ向かいにある酒屋の建屋と合わせ、風情を感じる一画となっている。
緑溢れる軒先から屋根に目を向けると、屋根を支える横架材の桁が前面に突出し、深い庇をつくっている。これは「出桁造り」と呼ばれ、関東の町家や商家を中心に江戸から昭和にかけて造られてきた伝統的な建築様式の一つである。軒下と店内の土間空間も合わせて、店の販売面積を大きく取れるという特徴がある。
硝子戸を開けて店内に入ると、1階手前の土間空間を中心に客席が設けられている。昼時の来訪だったこともあり、今回は主菜の選べるランチプレートと同店オリジナル「妻ブレンド」のアイスコーヒーを注文した。事前に得ていた情報では、こだわりの「サクサク梅酢唐揚げ」が人気とのことであったが地物のレモンを使ったレモンカレーが気になったため、主菜はレモンカレーとした。
料理を待つ間に奥の階段を上がり、2階の雑誌ショップを覗く。階段途中の窓から見える1階の灯具は淡い光を放っており、レトロで何とも味わい深い。階段を上がった先は座敷となっており、床の間脇の引戸に施された富士山を型どった組子細工や欄間など細部に職人技を感じることができる。ここでは同店オリジナルのTシャツやエコバッグ等のグッズが販売されていた。
室内やグッズをひとしきり堪能し、自席に戻るとタイミング良く料理が運ばれてきた。レモンカレーは、スパイスの辛みとレモンの酸味、爽やかな香りがチキンをベースにしたスープに溶けだし、ついつい癖になる味をつくり上げている。モチモチの玄米と野菜中心の添え物も美味しく身体にも優しいのが嬉しい。妻ブレンドのアイスコーヒーはスッキリとした口当たりで仄かに甘味も感じられ、カレーのスパイスで火照った身体をクールダウンしてくれた。レモンクレープなど他にも気になるメニューが沢山あったので、小田原散策の折りには、是非とも再訪したいお店であった。
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