[カレンダー]柳宗理と横浜・神奈川【12/25】
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更新日:23 時間前

日本を代表するインダストリアルデザイナーである柳宗理(やなぎ・そうり)は、横浜・神奈川においても数々の公共デザインを手がけ、都市空間と生活の質を高める重要な役割を果たした。特に1970年代から90年代にかけて、横浜市営地下鉄の駅施設や公園設備、都市インフラのデザインに深く関わっている。12月25日は柳宗理の命日であることから、彼の横浜・神奈川における功績と関連する遺構を紹介する。
インダストリアルデザイナー 柳宗理
柳宗理(やなぎ・そうり)は大正4(1915)年6月29日、東京・原宿に生まれ、本名は柳宗理(むねみち)。父は民藝運動の創始者・思想家の柳宗悦。東京美術学校(現・東京藝術大学)で洋画を学び、戦後は坂倉準三建築研究所に所属しながら、デザインの道へ進む。
昭和30年代(1940年代後半)から工業デザインに本格的に取り組み、昭和25(1950)年に「柳インダストリアルデザイン研究所」を設立。昭和28(1953)年には財団法人柳工業デザイン研究会を創設し、生活に根ざした美と機能性を追求する製品を数多く生み出した。代表作には「バタフライスツール」「エレファントスツール」「柳宗理カトラリー」などがあり、いずれもシンプルで有機的なフォルムと高い実用性を兼ね備えている。
彼のデザイン哲学は「使う人の立場に立つこと」「手で形を探ること」にあり、図面よりも模型や試作を重視する姿勢で知られる。また、民藝思想の影響を受け、名もなき職人の手仕事に宿る美を現代の工業製品に活かそうとした。
国際的にも高く評価され、昭和32(1957)年のミラノ・トリエンナーレで金賞を受賞。作品はニューヨーク近代美術館(MoMA)やルーブル美術館などに永久収蔵されている。教育者としても長く金沢美術工芸大学で教鞭を執り、後進の育成にも尽力した。
晩年は日本民藝館の館長を務め、父・宗悦の思想を継承しつつ、生活と美の融合を問い続けた。平成23(2011)年12月25日、肺炎のため96歳で逝去。彼のデザインは今なお世界中で愛され続けている。
禅馬歩道橋(1969年)

昭和44(1969)年に完成した「禅馬歩道橋」は、横浜市磯子区に位置し、柳宗理が初期に手がけた歩道橋デザインのひとつである。国道16号線をまたぐこの橋は、交通量の多い幹線道路において歩行者の安全と快適な移動を確保するために設計された。柳は従来の無機質で画一的な歩道橋に疑問を抱き、「都市の中に美しい構造物を」という理念のもと、機能性と造形美を融合させたデザインを追求した。禅馬歩道橋では、緩やかなスロープと曲線的な手すり、視線の抜けを意識した構造が特徴で、歩行者にとっての心理的な圧迫感を軽減している。また、素材や色彩にも配慮がなされ、周囲の景観と調和するよう設計されている。この橋は、柳の「公共空間における美」の思想を体現する先駆的な試みであり、後の都市デザインに大きな影響を与えた。
野毛のつり橋と野毛山公園案内板(1970年)

野毛のつり橋(のげのつりばし)は、神奈川県横浜市西区に架かる、野毛山動物園と野毛山公園を結ぶ歩道橋である。橋名にはつり橋とあるが、実際の構造は斜張橋である。
昭和45(1970)年6月28日に開催された「一万人市民集会」において、ある老人が「動物園と児童遊園が道路で二分されており、子どもたちの往来に危険なので橋か地下道を設置してほしい」と発言。飛鳥田一雄市長は実行を確約し、直ちに着手。「これを今までの歩道橋の考え方を転換するために」、インダストリアルデザイナーの柳宗理にデザインを依頼し、昭和46(1971)年3月に完成した。橋名は地元の小中学生から公募、「野毛のつり橋」と命名された。
18.2mの主塔1本とケーブル4本で橋桁を支える構造で、両端はスロープとなっている。斜張橋構造の歩道橋は、当時としては画期的なものであった。
当時、日本の歩道橋は美観を無視したものがほとんどで、最低限の機能があり構造的に問題がなければ良いとされていたが、土木構造物を魅力的にデザインすることで、都市空間の質を上げようという柳の考えから、斜張橋という当時では最新の構造で設計された。吊り橋周辺の高欄(手すり)には、金属パイプの上部先端を潰した柳デザインの代表的手法が用いられている。
平成25(2013)年8月から翌年1月にかけて、長寿命化に向けた改修工事が行われている。

また、つり橋のデザインと合わせて、動物園の案内板、公園・動物園内の標識デザインも手掛けた。多くは施設更新に合わせて撤去されているが、歩道橋周りの一部に現在も残されてるのが確認できる。
横浜市営地下鉄ブルーラインの駅施設(1972年)
横浜の骨格づくりとして昭和40(1965)年に当時の飛鳥田横浜市長により打ち出された「6大事業」の一つとして「高速鉄道(地下鉄)建設事業」がスタートした。
その建設にあたっては、昭和44 (1969)年11月に高速鉄道建設技術協議会第二小委員会(通称、デザイン委員会)が設置され、柳宗理をはじめ、河合正一(委員長、横浜国立大学教授)、デザイナーの柳宗理(柳工業デザイン研究所)・粟津潔(粟津デザイン研究所)・榮久庵憲司(GKデザイン研究所)・吉原慎一郎(創和建築設計事務所)らにより、新鮮で洗練されたデザインポリシーが作られた。
柳宗理は主としてストリートファニチャーを担当し、デザイン性の高い実用的な自動改札口・自動券売機、売店、電話ボックス、プラットフォーム の時計や消火栓、水飲み場・水汲み場、ベンチ・背もたれ、ゴミ入れ・灰皿、広告ケース等、設備 一式をトータルにデザインした。

残念ながら当初設置されていたステンレスフェイスの自動券売機やカプセル式の売店「キオスクボックス」などは撤去されてしまったが、現在でも、昭和47(1972)年に開業した伊勢佐木長者町から上大岡までの区間の駅には、曲面のステンレス製水飲器や、「く」の字の背もたれサポーター、ベンチ、消火栓などが現存しており、柳宗理により独創的かつ機能的なデザインに触れることができる。

横浜駅の地下1階には柳宗理によるレリーフ「港の精」が設置されているのが、平成22(2010)年にその場所に店舗が作られてが見ることができなくなっている。
「港の精」は、GRC(Glassfiber Reinforced Concrete;ガラス繊維補強コンクリート)製で、柳と事務所スタッフの共同作業により製作したもの。セメントが流し込まれた型枠に板を渡して、その板の上に乗った柳が竹べらを使って波のうねりを実際に削り描いたとされる。この壁画(中心部)にある金属レリーフの原案は、柳が学生時にデザインした人魚像の写真コラージュからきたもので、横浜をイメージする青い波にそれを取り込んだ。
東名高速道路・東京料金所防音壁(1980年)
昭和55(1980)年、柳宗理は東名高速道路・東京料金所の防音壁(川崎市宮前区南平台)のデザインを手がけた。高速道路のインフラにおいて、機能性と景観性を両立させるという課題に対し、柳は波形のリズムを持つ有機的なパネル構成で応えた。防音性能を確保しつつ、単調になりがちな道路景観に動きを与えるこのデザインは、都市インフラにおける「見えない美」を追求したものといえる。素材や形状は、耐久性とメンテナンス性にも配慮されており、工業製品としての完成度も高い。柳はこのような公共空間においても、民藝思想に通じる「用の美」を実現しようとした。現在も多くのドライバーが無意識のうちにそのデザインに触れており、柳の思想は都市の風景に静かに息づいている。
湯河原バス停留所「海の家」かもめシェルター(1975年)
湯河原町吉浜にある箱根登山バス「海の家」バス停留所には柳総理がデザインした通称「かもめシェルター」が現存している。昭和50(1975)年に発表された「バスストップシェルター(T型)」は、柳宗理がデザインした公共空間用のシェルターで、その特徴的な形状から「かもめシェルター」とも呼ばれている。銀座松屋で開催された「柳宗理 ストリートファニチャー展」で初公開され、その後コトブキ社により製品化された。素材にはFRP(繊維強化プラスチック)が用いられ、ハンドレイアップ成形によって滑らかな曲面が実現されている。T字型の構造は、雨風を防ぎつつ視界を遮らない開放的な空間を提供し、都市景観に軽やかさを添える。ユニット式で連結可能な設計により、用途に応じた柔軟な配置が可能で、バス停留所だけでなく、公園のベンチや駐輪場の屋根としても活用された。製造は終了しているが、全国各地に現存例があり、柳の「用の美」が今もなお街角に息づいている。
日本におけるインダストリアルデザインの先駆者、柳宗理のパブリック(公共)へのコミットクォ体感できる場所を巡ってみるのも、近現代のまちづくりを知る上で良いかもしれない。
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