鎌倉大仏で有名な大仏坂切通しの先に連なる鎌倉市常盤地区。中世には「常盤邸」と呼ばれた北条氏の別邸や屋敷が、近代には隣接した鎌倉山の別荘地が開発される等、現在も緑豊な宅地が広がっている。湘南モノレール湘南深沢駅から住宅街を抜け、深沢小学校脇の川沿いの小径を鎌倉方面に歩いていくと左手に風情のある古民家が見えてくる。
築約80年の風情ある古民家は令和4(2022)年末に閉店するまで12年に渡り「鎌倉ゲストハウス」として多くの来訪者を迎えてきた。令和5(2023)年5月にそんな歴史ある古民家に信州産のそば粉を使用した「十割そば」と旬の信州産野菜が味わえる店として「そばcafe.tamazee」がオープンした。
手前に大きく張り出した座敷、高低差を活かして半地下を持った外観は沿道からも目を惹く。外壁は押縁下見板張りで、2階の戸袋が矢羽根のような仕上げとなっている。玄関を入り店内に入ると右手から3つの座敷が連なる。最も玄関に近い初めの間には囲炉裏があり、立派な梁から釣られた灯具が素敵である。外観からも目を惹いた奥の間には、大きく湾曲しコブのある天然木を使った床の間がある。各部屋は天井仕上げも異なり、囲炉裏のある間は細く割った竹材を敷き詰めた天井、次の間は網代天井、奥の間は窓上だけ傘天井と、随所に職人の技量の高さが窺える。店主によれば、数寄屋大工がモデルルームのように建てた自邸とのことで、ゲストハウスとして使用していた当時からこれらの部屋は創建時のままとしているそうだ。
ゆったりとした席に着き、「十割そば相盛と信州野菜米粉の天ぷら」を注文した。先出のみょうがの甘酢漬けとそば茶をいただきながら待っていると、料理が運ばれてくる。天ぷらは米粉を使用していることもあり、サクッとした口当たりに野菜の甘みが美味しい。蕎麦は同じ「十割そば」をでも粗碾きと細碾きの二種が味わえるようになっており、粗碾きはモチッとして蕎麦の旨みがダイレクトに伝わる食感が美味しい。対照的に細碾きは、のど越しが良く、なめらかな食感が味わえる。ちょうど新そばの時期の訪問だったこともあり、豊かな風味の蕎麦を堪能できた。
少し行きにくい位置にはあるが、建物も一見の価値があり蕎麦も絶品なので、鎌倉散策の途中に是非立ち寄ってみてはいかがだろうか。
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