[歴飯_番外編]The Old Bus
- heritagetimes

- 3月22日
- 読了時間: 4分

以前、横浜港・新港埠頭対岸の日本郵船横浜ビルの隣に建っていた旧日本郵船倉庫には「BankART Studio NYK」と呼ばれるオルタナティブスペースがあった。
「BankART Studio NYK」は横浜市の創造施策の一環として置かれた創造拠点の一つであり、現代アートの展示や様々なイベントが行われていた他、「cafe&Pub」を備え、界隈のクリエーターやデザイナー、地元の人などの交流の場ともなっていた。その「BankART Studio NYK」の岸壁にはクラシカルなバスが置かれていて、その中ではバーが営業していた。それが「JACK KNIFE」、通称バスバーである。しかし平成30(2018)年3月、「BankART Studio NYK」が閉鎖されたことに伴い閉店となった。今回、歴飯が神奈川を飛び出して訪れたのは、その「JACK KNIFE」のレガシーを引き継ぎ、西伊豆で営業している「The Old Bus」である。
沼津港から西伊豆に向かう県道17号線。右側に透明度の高い駿河湾を眺めながら車で30分ほど走っていると海沿いの一角に、古く趣のある青いバスが現れる。「The Old Bus」である。

「The Old Bus」は予約制。休日の午後、少し時間から遅れてしまったが、到着するとオーナー夫婦が迎えてくれた。
バスに入ると中央に数席のカウンター、その奥に6人くらいがテーブルを囲んで座れるソファー席がある。ソファー席に座り飲み物をオーダーする。オリジナカクテルやオーガニックなコーヒー、ソフトドリンクがライナップされているメニューの中から「自家製ジンジャーシロップを使ったジンジャーエール」を、同行者は「自家製梅シロップの梅ソーダ」「自家製塩のレモンソルティドック」を注文した。

改めて店内を見ると、所狭しと貼られた名刺、紫炎に燻された天井など、「JACK KNIFE」時代のそのままのように思える。むしろ「JACK KNIFE」は夜間の営業で少し暗めの照明だったため、店内の様子の全貌を初めて見たようにも思えた。しかし、オーナー夫婦に伺ったところ、前のオーナーから車体を引き継いだ時には、床、壁、天井のかなりの部分は腐食していたため、少しづつセルフリノベーションで修復し、特に床は全面的に張り替えているとのこと。その際に「古い趣は損なわないように。「JACK KNIFE」時代に来られた方にも懐かしんでもらえるよう、イメージはなるべくそのままに。」とこだわって取り組んだという。

店内の様子を楽しんでいるうちにオーダーした飲み物が届けられた。落ち着いた空間で、車窓には駿河湾越しに望む富士山、静かに心地の良い時間が流れる。「The Old Bus」がテーマとしている「チルアウト=Chill out」というのはこういう時間の過ごし方なのであろう。
たっぷりと時間をかけて飲み物を楽しんだあと、外観も見てみる。オリエント急行をモチーフとしたという「JACK KNIFE」時代の外観はほとんど変わらない。
2分割されたフロントガラス、流線型を強調するように菱形に組み込まれた窓ガラスが特徴的なこの車体の車種は、昭和54(1979)年製三菱ふそうMS513R(推定)。B35型セミデッカボデーを架装し、305馬力の8DC8型を搭載。主に観光バスなどに使用されており、団体バス旅行が流行した1970年代から1980年代にかけて活躍した。

この車体も元々、浜松の遠州鉄道バスの観光バスとして使用されていたと伝えられているので、看板ツアーの舘山寺温泉などで活躍していたのであろう。
その後、この車体は平成元(1989)年、前オーナーに買い取られ、バーに改造され「JACK KNIFE」となり、新山下、本牧で営業した後、平成24(2012)年に「BankART Studio NYK」の河岸へ定着した。
しかし、日本郵船横浜支店周辺の再開発が計画されたことに伴って「BankART Studio NYK」の閉鎖が決定すると、「JACK KNIFE」も閉店。車体も引き受け手がなければスクラップとならざるを得ないとなったところで、常連客だった現オーナーが手をあげ、そのレガシーが引き継がれ「The Old Bus」となった。

元オーナーから車体を引き継いだあと、移設、クラウドファンディング、修理、開店に至るまでのオーナーの苦労は、開店5周年を期に発行された冊子(寄付で購入可)にまとめられているが、是非、一度立ち寄って、その癒しの空間を体験しながら、気さくなオーナーから聴いていただきたい。それは「歴史を生かしたまちづくり」活動そのものであり、様々な人の出会いの物語でもある。この車体はきっと浜松・舘山寺温泉に向かう客、新山下・本牧の港湾労働者、関内地区のクリエーターなど様々な人たちの「チルアウト」が染みついているのかもしれない。癒しの時間はあっという間に過ぎる。帰りの時間になったので、オーナーに挨拶をして帰路についた。

「The Old Bus」には道を挟んで元々海の家だった建物をアトリエにリノベーションした「アトリエウミノイエ」やキャンプ場も併設されているので、次回はゆっくりと時間を取りたい。「JACK KNIFE」時代を知る人はもちろん、知らない人にもおすすめである。

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