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[レポート]横浜山手西洋館 世界のクリスマス2025 - 山手の丘で7つの国をめぐる - 【THE HERITAGE TIMES YOKOHAMA KANAGAWA】



山手の丘で7つの国をめぐる

横浜山手西洋館で恒例の「世界のクリスマス」が令和7(2025)年12月1日(月)から始まった。期間は12月25日(木)まで。

世界のクリスマスは平成12(2000) 年に、「外交官の家」「ブラフ18番館」「エリスマン邸」「山手234番館」「山手111番館」の5館でスタートした。平成13(2001)年に「横浜市イギリス館」、平成14(2002)年に「ベーリック・ホール」、平成17(2005)年に「旧山手68番館」が加わり、現在の8館体制となった。第1回では約3万6千人であった入館者数は、昨年(令和6(2024)年)は約16万5千人を数えるほどのイベントとなり、横浜山手の風物詩ともなっている。しかし今年は、山手234番館が改修工事のため、残りの7館で開催されている。

今年のテーマは「山手の丘で7つの国をめぐる」。今回も各国の特徴を活かし、一流のアーティストによる個性が豊かな装飾が見学者を歓迎する。




外交官の家 [ノルウェー王国]


毎年、待降節が始まるとノルウェーはクリスマス一色となり、大切な人と過ごす特別なシーズンが始まる。ノルウェーのクリスマスはキリスト教化される前の冬至のお祭りと深く結びついている。暗く、寒いノルウェーの12月にあって、再び太陽が光り輝く日々が戻ってくることを予感させる冬至は、まさに未来への希望の日でもある。



装飾を手掛けたのは井上勢津氏(株式会社ノルディックカルチャージャパン)である。装飾のテーマは「平和を待ちのぞむ」。アドヴェントカレンダーを楽しみ、ツリーオーナメントを手作りし、クリスマスソングを歌い、伝統菓子を焼き、モミの木を飾り、プレゼントを準備する。そんな小さな幸せを重ねながら、クリスマスの平和な時間を待ちのぞむノルウェー人の暮らしを紹介する。



外交官の家は、ニューヨーク総領事やトルコ特命全権大使などを務めた明治政府の外交官、内田定槌氏の邸宅として、明治43(1910)年に東京渋谷の南平台に建てられた。 設計者はアメリカ人で立教学校の教師として来日し、その後建築家として活躍したJ.M.ガーディナーである。 建物は木造2階建てで塔屋がつき、天然スレート葺きの屋根、下見板張りの外壁を備え、華やかな装飾が特徴の「アメリカン・ヴィクトリアン」の影響を色濃く残している。1階は食堂や大小の客間など重厚な部屋で構成され、2階には寝室や書斎など生活感あふれる部屋が並んでいる。

これらの部屋の家具や装飾にはアール・ヌーボー風の意匠とともに、19世紀イギリスで展開された美術工芸の改革運動「アーツ・アンド・クラフツ」のアメリカにおける影響も見られる。



横浜市は、平成9(1997)年に内田定槌氏の孫にあたる宮入氏からこの建物部材の寄贈を受け、山手イタリア山庭園に移築復原し、一般公開した。同年、国の重要文化財に指定された。室内は家具や調度類が再現され、当時の外交官の暮らしを体験できるよう工夫されている。各展示室には、建物の特徴やガーディナーの作品、外交官の暮らしなどについての資料を展示している。また、付属棟には、喫茶室が設けられている。


ブラフ18番館 [オーストラリア連邦]


南半球にあるオーストラリアのクリスマスは、真夏真っ盛りの時期に行われる。 冬のクリスマスとは違い、バーベキューをしたり、ビーチでパーティをしたりと、夏らしく家族での大切な時間を過ごす。クリスマスに使われる色は、暖色系より涼し気な色が多く使用される。もちろんカンガルーも大活躍のシーズンとなる。日本のクリスマスとは一味違う雰囲気が感じられる。



装飾を手掛けたのは福田朋子氏(D.Moon主宰)である。夏らしくガラスの器、ブルーとホワイトの世界を作り出し、そしてオーストラリアで生まれた植物であるユーカリ、さらには色々な種類のユーカリやネイティブフラワーを使って演出しているのが特徴である。



ブラフ18番館は、関東大震災後に山手町45番地に建てられた、オーストラリアの貿易商バウデン氏の住宅であった。戦後は、天主公教横浜地区(現カトリック横浜司教区)の所有となり、カトリック山手教会の司祭館として平成3(1991)年まで使用されていた。同年に横浜市が部材の寄贈を受け、山手イタリア山庭園内に移築復元し、平成5(1993)年から一般公開している。なお、震災による倒壊と火災を免れた住宅の一部が、部材として利用されていることが解体時の調査で判明している。



建物は木造2階建てで、1・2階とも中廊下型の平面構成である。白い壁にフランス瓦の屋根、煙突は4つの暖炉を1つにまとめた合理的な造りとなっている。その他、ベイウィンドウ、上げ下げ窓と鎧戸、南側のバルコニーとサンルームなど、洋風住宅の意匠を備えている。外壁は震災の経験を生かし、防災を考慮したモルタル吹き付け仕上げとなっている。

館内は、震災復興期(大正末期~昭和初期)の外国人住宅の暮らしを再現し、当時元町で製作されていた横浜家具を修復して展示している。さらに、平成27(2015)年には2階の展示室を寝室にリニューアルした。本館につながる付属棟は、貸しスペースとして、ギャラリー・展示会などに利用されている。横浜市認定歴史的建造物。


ベーリック・ホール [フランス共和国]


フランスではクリスマスは「ノエル」と呼ばれ、家族と共に過ごす習慣がある。クリスマスシーズンには、歴史を今に伝える素晴らしい街並みがデコレーションを纏い、さらに美しさを増し、素敵なノエルへと人々を誘う。

今回、装飾を手掛けたのは松島理恵子氏である。「人々を魅了し続ける美しきフランス、そして家族と過ごす大切なノエルへのオマージュを作品に込めました。素敵な時間を是非ベーリック・ホールにてお過ごし頂けます様に。」



装飾には、特徴的な八重咲のユリがふんだんに使われている。ユリは古くからヨーロッパの人々に親しまれてきた。王家の紋章や宗教美術に登場し、白ユリは聖母マリアの象徴として、イースターの飾りにも欠かせない花である。明治期、横浜港から海外に輸出される植物の代表はユリであった。横浜港のユリ根輸出は、日本全体の90パーセント以上を常時占めていた。



ベーリック・ホール はイギリス人貿易商B.R.ベリック氏の邸宅として、昭和5(1930)年に設計された。第二次世界大戦前まで住宅として使用された後、昭和31(1956)年に遺族より宗教法人カトリック・マリア会に寄贈された。その後、平成12(2000)年まで、セント・ジョセフ・インターナショナル・スクールの寄宿舎として使用されていた。 現存する戦前の山手外国人住宅の中では最大規模の建物で、設計したのはアメリカ人建築家J.H.モーガンである。モーガンは、山手111番館や山手聖公会、根岸競馬場など数多くの建築物を残している。約600坪の敷地に建つべーリック・ホールは、スパニッシュスタイルを基調とし、外観は玄関の3連アーチや、「クワットレフォイル」と呼ばれる小窓、瓦屋根をもつ煙突など、多彩な装飾が施されている。



内部も、広いリビングルームやパームルーム、アルコーブや化粧張り組天井が特徴のダイニングルーム、白と黒のタイル張りの床、玄関や階段のアイアンワーク、また、子息の部屋の壁はフレスコ技法を用いて復原されていることなど、建築学的にも価値のある建物である。 平成13(2001)年に横浜市は、建物の所在する用地を元町公園の拡張区域として買収するとともに、建物については宗教法人カトリック・マリア会から寄贈を受けた。復原・改修などの工事を経て、平成14(2002)年から、建物と庭園を一般公開している。横浜市認定歴史的建造物。


エリスマン邸 [アメリカ合衆国]


移民の国であるアメリカ合衆国は、様々な国の文化を感じられるミックススタイルのクリスマスである。家族が集まって、共に過ごし祝うのが慣わしである。ツリーの下には沢山のプレゼントが置かれ、七面鳥やクリスマスクッキーなどの料理を楽しむ。クリスマスの時期は街中がイルミネーションで彩られ、賑やかで華やかな雰囲気が特徴的である。



今回、装飾を手掛けたのは山本直子氏(神奈川インテリアコーディネーター協会)である。

「エリスマン邸の設計者であるアントニン・レーモンドが晩年を過ごした街、ペンシルベニア州ニューホープ。この街のクリスマスの雰囲気をイメージしました。装飾には、彼の出身地であるチェコや、最も愛した日本の文化、師匠であるフランク・ロイド・ライトの照明、妻ノエミの家具を取り入れ、レーモンドを感じる空間を表現しています。」

また、今回、2階ではアントニン・レーモンドに関する展示も行われているので、そちらも合わせてご覧いただくことができる。



エリスマン邸は、生糸貿易商社シーベルヘグナー商会の横浜支配人格として活躍した、スイス生まれのフリッツ・エリスマン氏の邸宅であった。大正14(1925)年から15(1926)年にかけて、山手町127番地に建てられた。設計は、「近代建築の父」といわれるチェコ人の建築家アントニン・レーモンドである。



創建当時は木造2階建て、和館付きで建築面積は約81坪であった。屋根はスレート葺、階上は下見板張り、階下は竪羽目張りの白亜の洋館であった。煙突、バルコニー、屋根窓、上げ下げ窓、鎧戸といった洋風住宅の意匠と、軒の水平線を強調した木造モダニズム的要素を持っている。設計者レーモンドの師匠である世界的建築家F.L.ライトの影響も見られる。



昭和57(1982)年にマンション建築のため解体されたが、平成2(1990)年に、元町公園内の現在地(旧山手居留地81番地)に再現された。1階には暖炉のある応接室、居間兼食堂、庭を眺めるサンルームなどがあり、簡潔なデザインを再現している。椅子やテーブルなどの家具は、レーモンドが設計したものである。かつて3つの寝室があった2階は、写真や図面で山手の洋館に関する資料を展示している。また、昔の厨房部分は喫茶室として、地下ホールは貸しスペースとして利用されている。横浜市認定歴史的建造物。


横浜市イギリス館 [英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)]



今年も横浜市イギリス館のクリスマスは「英国」がテーマである。初参加となった平成13(2001)年の第2回から20年連続で「英国」を担当しているという。英国総領事公邸であったこの建物の由来を思えば当然かもしれない。

英国ではサンタクロースのことを「ファーザークリスマス」という。家族で過ごす賑やかなディナーシーンが目に浮かぶ。特別な食器に盛られた心のこもった温かい手作りの料理。子どもたちも一緒に準備をする。そして英国のクリスマスに欠かせないファーザークリスマスのグロッドで遊ぶ子どもたち。みんなファーザークリスマスが大好きである。そんな情景が浮かぶ展示となっている。



今回、装飾を手掛けたのは、いなみ純子氏(ケイ山田ガーデニングスクール横浜教室代表)と本間るみ子氏(Studio R主宰)である。

「クリスマスの休日。自然豊かな英国のコッツウォール地方のコテージをイメージしました。クリスマスを告げる鳥として古くから英国民に愛されている小鳥のロビン(ヨーロッパ・コマドリ)。お願いごとをすると叶うというファーザークリスマスのグロッド『Santa's Grotto』をご紹介いたします。」



横浜市イギリス館は、昭和12(1937)年に、上海の大英工部総署の設計によって、英国総領事公邸として、現在地に建てられた。鉄筋コンクリート2階建で、広い敷地と建物規模をもち、東アジアにある領事公邸の中でも、上位に格付けられていた。 主屋の1階の南側には、西からサンポーチ、客間、食堂が並び、広々としたテラスは芝生の庭につながっている。2階には寝室や化粧室が配置され、広い窓からは庭や港の眺望が楽しめる。地下にはワインセラーもあり、東側の付属屋は使用人の住居として使用されていた。



玄関脇にはめ込まれた王冠入りの銘版(ジョージⅥ世の時代)や、正面脇の銅板(British Consular Residence)が、旧英国総領事公邸であった由緒を示している。 昭和44(1969)年に横浜市が取得し、1階のホールはコンサートに、2階の集会室は会議等に利用されている。また、平成14(2002)年からは、2階の展示室と復元された寝室を一般公開している。横浜市指定文化財。


山手111番館 [大韓民国]


韓国では、人口約30%を占めるクリスチャンが、12月24日クリスマスイブと25日クリスマスに教会で礼拝を行い、賛美歌や劇、食事会でトラディショナルに過ごしている。また、クリスチャンでなくても家族や友人と外食を楽しみ、ケーキを食べる風習がある。韓国ではクリスマスにチキンを食べる文化は特にないとされている。クリスマスシーズンになると韓国の街はカラフルな電飾で装飾され華やかな雰囲気となる。



今回、装飾を手掛けたのは竹内薫氏(The Table ALICE主宰)である。装飾のテーマは「美しき韓国伝統色の성탄절(ソンタンジョル) - 聖誕節 - 」だ。韓国領事館から貸し出された来客用の重厚な食器に合わせて、韓国伝統色の布類と伝統工芸品をクリスマス装飾に取り入れた演出となっている。韓国Classicとクリスマスの融合を図り、また、伝統色本来の意味である無病息災、安寧長寿への願いを込めている。2025年日韓国交正常化60周年記念のロゴにも見られる「赤(紅)」と「青(翠)」の美しいコントラストのホールから見学者を迎える構成である。



南アフリカの伝統的なビーズ細工を飾ったクリスマスツリーや、プロテア(南アフリカの国花)の花、動物のオーナメント、キャンドルライト、南アフリカの紋章をあしらった金色の食器、そしてクリスマス・ギフトなど、南アフリカのクリスマス・スピリットを彩る装飾となっている。装飾は駐日南アフリカ共和国大使館が担当した。



山手111番館は、横浜市イギリス館の南側にあるスパニッシュスタイルの西洋館である。ワシン坂通りに面した広い芝生を前庭とし、港の見える丘公園のローズガーデンを見下ろす建物は、大正15(1926)年にアメリカ人ラフィン氏の住宅として建設された。設計者は、ベーリック・ホールと同じく、J.H.モーガンである。 玄関前の3連アーチがベーリック・ホールと同じ意匠となっているが、山手111番館は天井がなくパーゴラになっているため、異なる印象を与える。



大正9(1920)年に来日したモーガンは、横浜を中心に数多くの作品を残しているが、山手111番館は彼の代表作の一つと言える。赤い瓦屋根に白壁の建物は、地階がコンクリート、地上が木造2階建ての寄棟造り。創建当時は、地階部分にガレージや使用人部屋を、1階に吹き抜けのホール、厨房、食堂と居室を、2階は海を見晴らす寝室と回廊、スリーピングポーチを配していた。



横浜市は、平成8(1996)年に敷地を取得し、建物の寄贈を受けて保存、改修工事を行い、平成11(1999)年から一般公開している。館内は昭和初期の洋館を体験できるよう家具などを配置し、設計者モーガンに関する展示等も行っている。現在、ローズガーデンから入る地階部分は、喫茶室として利用されている。市指定文化財。


旧山手68番館 [フィリピン共和国]


クリスマスはフィリピンで最も長く、最も愛されるイベントの一つである。フィリピンでのクリスマスの準備は早くも9月から始まる。日本のクリスマスが一般的に気軽な行事であるのに対し、キリスト教徒が大多数を占めるフィリピンでは、はるかに強い宗教的意義が込められている。



今回の装飾は、フィリピン大使館が手掛けており、フィリピンにおけるクリスマスの祝い方を紹介するフィリピン風のクリスマス装飾品やその他の飾り付けが展示されている。中でも、暖炉の上に置かれたキリスト降誕の情景を再現した大きなクリブは見応えがある。



旧山手68番館は、昭和9(1934)年に建てられた外国人向けの賃貸住宅で、昭和61(1986)年に山手公園にその一部を移築したもの。現在は、山手公園管理センターとして利用されている。横浜市登録歴史的建造物。


横浜山手西洋館では、この「世界のクリスマス」のほか、毎年「花と器のハーモニー」「ハロウィンウォーク」「山手芸術祭」といった恒例行事があり、見学者の楽しませ、西洋館の魅力を高めている。是非、こうした機会にも訪れていただきたい。



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