鎌倉から江ノ島電鉄に乗り江ノ島に向かうと、腰越の商店街を越え、龍口寺前で大きくカーブを描いて江ノ島駅に至る。腰越の商店街を抜けて江ノ島方面に向かうと、このカーブに沿って建つ黄色い外観の洋風古民家が目を惹く。この1階に店を構えるのが、老舗喫茶「COFFEEどる」である。
同店の入る古民家は、建築家・建築史家の藤森照信氏により名付けられた「看板建築」と呼ばれる建築様式である。木造建屋の沿道や隣家に面した外壁面をモルタルや金属板、タイル等の不燃・難燃材で覆い、装飾を施こす、看板を合わせたような姿が特徴となっている。この種の建築は、関東大震災の火災による教訓から国の政策などの影響を受け、復興期から戦前期を通して都市部の沿道で多く建てられた。
改めて同店の入る古民家を見ていく。外観はモルタル吹付だと思われるが、建屋の輪郭と窓枠部は石張りに見えるように凹凸を付け、その他の部分と色を変えて仕上げている。正面に2階の小割の木製サッシと窓枠上部の意匠が美しい外観を作り出している。店主によると同店の入る一室は、以前は商店街の事務所として使われていたそうだが、上部のレリーフには「角半商店」と書かれており、かつては何らかの店舗だったことが窺える。そんな歴史ある古民家だが、同店も49年前から店を構えているとのことで、年季の入った店内が何とも味わい深い。
店内はカウンター席が数席のみの小さな店舗だが、これまでに多くの来訪者を迎えてきたであろう店主が丁寧に淹れる珈琲が美味しい。以前はこの一帯も個人商店や銭湯で賑わっていたが、時代と共に景色が様変わりし寂しくなってしまったそうだ。メニューは珈琲、カフェオレ、ミルクと数種類のみだが、カウンター席に腰掛け、時折店の前を通る江ノ電や往来の人々を眺めながら、ほっと一息つくのが何とも心地よい。隣には歴飯84で取り上げた扇屋もあるので、腰越や江ノ島散策の折に、是非立ち寄ってみてはいかがだろうか。
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