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[歴湯_10]湯河原温泉「源泉上野屋」

更新日:2023年8月6日



「足柄の土井の河内に出づる湯の世にもたよらに子ろが言わなくに」と「万葉集」に詠まれた湯河原温泉は万葉の時代から知られた温泉地であった。夏目漱石、島崎藤村、芥川龍之介をはじめ多くの文士が逗留したことでも有名である。 その湯河原温泉の中でも一番古い歴史を持つのが今回訪れた「源泉 上野屋」。江戸時代に湯屋としてはじまり、かの水戸光圀も湯治に訪れたと伝えられる歴史ある温泉湯宿である。

上野屋は、温泉宿でデイユースの日帰りプランもあるが、今回は湯河原温泉の魅力を伝える街歩きイベント「湯探歩(ゆたんぽ)」の企画の一環として企画された館内の見学と入浴が体験できるツアーに申し込んで参加した。



集合時間に上野屋に向かうと玄関にはすでに7〜8人の参加者が集まっていた。案内人は当主の室伏常夫氏。「皆さん、この後の時間は大丈夫ですか?熱が入るとついつい案内が長くなるもので。」というつかみからガイドが始まる。

上野屋の建物は、すべて木造の近代和風建築で、昭和5(1930)年築の本館、大正12(1923)年築の別館、昭和11(1936)年頃築の玄関棟。いずれも平成22(2010)年に国の有形文化財として登録されている。



まずは玄関に飾られている明治36(1903)年の湯河原付近の絵地図の紹介。「湯気の立っているところが温泉宿でこの頃は今よりもっと温泉旅館があった」とのこと。玄関棟は上野屋の敷地の東南隅に建つ、大広間部と玄関部がL字型に取り付く木造2階建。屋根は入母屋造、鉄板及び銅板葺で、さらに前後に落棟を付け、正面中央には「むくり」のある屋根をもつ。玄関棟の廊下をそのまま進み急な階段を登ると、上野屋で最も建築年が古い別館に着く。



別館は木造2階建、鉄板葺。震災の年に建築されたとなっているが、「震災前なのか震災後なのか、詳細まではわかっていない」とのことである。客室の内部も案内され、「昔は廊下が部屋の周りにあったが、今は各部屋に分けている」こと、クスノキの階段、クロマツの廊下、一枚板の天井や長い丸桁など歴史的な部分を継承しながら、現代の使い方に合わせた改修を少しずつしていくことで長く使い続けることができていること、など解説があった。

別館から長い廊下を渡ると本館に着く。傾斜地に建つ木造4階建で、上階ほど階段状に山側へ張り出し、4階から階段により離れ(5階)に至る。


5階には平成19(2007)年にオープンした、湯河原の山並みを眺望できる展望足湯「仄幸(そくさい)の湯」。足湯には、かつて常連だった粋人の好みで作った客室を そのまま活かした休憩室があり、そこでも景色を眺めながらゆったりできるようになっている。

本館から玄関に戻り案内は終了。フロントで貸しタオルを受け取り、いよいよ入浴へ。館内には温泉付きの部屋もあるが、今回は玄関棟にある「六瓢(むびょう)の湯(昭和60(1985)年改築)」に入った。「六瓢の湯」の浴場は「桧風呂」と「御影石風呂」の2種類。朝と夕で男女入れ替え制で、今回は「桧風呂」に入浴。「六瓢の湯」の「瓢」はひょうたん。上野屋のシンボルになっており、のれんや浴衣などにもひょうたんの絵柄が描かれている。



泉質はナトリウム・カルシウム塩化物・硫酸塩泉。源泉掛け流し。湯河原のお湯は「傷の湯」といわれており、日清・日露戦争の際には負傷者たちが療養に訪れ、太平洋戦争中は横須賀海軍病院の分院が置かれていた。 静かな浴室で街歩きの汗を流し、ゆっくり湯船に浸かり、歴史ある温泉を堪能することができた。



最後に、玄関脇の「談話室」で少し汗が引くのを待って、上野屋を後にした。 今回は湯河原温泉の街歩きイベント「湯探歩」の企画で参加することができた。「湯探歩」は今後も偶数月の第1週土日に開催され、上野屋以外の登録有形文化財の温泉宿の見学会もあるので、ぜひイベントに参加し歴史ある温泉を堪能しに訪れていただきたい。



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