[開港5都市]開港5都市景観まちづくり会議2026長崎大会 - 10 まちあるき分科会3「新旧建物探訪」【THE HERITAGE TIMES YOKOHAMA KANAGAWA】

令和8(2026)年11月1日(日)、「開港5都市景観まちづくり会議2026神戸大会」2日目の午後は、午前中のテーマ分科会に続く「まちあるき分科会」として7つのエクスカーションに分かれて見学と意見交換が行われた。
それぞれ、分科会1は「『宣教師の丘』東山手を巡る旅」、分科会2は「過去と未来が石畳に響く『学園の丘』東山手ツアー」、分科会3は「新旧建物探訪」、分科会4は「港まちが経験したパンデミックや被災経験を活かしたまちを歩く」、分科会5は「平成初期から続く『斜面市街地再生』と『唐人屋敷顕在化』のいま」、分科会6は「江戸時代のまちづくり-朱印地と町人文化の足跡(北巡り)」、分科会8は「『岬のエリア』の歴史資産とまちづくり」をテーマとしており、[THE HERITAGE TIMES YOKOHAMA KANAGAWA]は各分科会に参加した。
※分科会7は都合により中止となった。
分科会3のテーマは南山手地区を中心とした「新旧建物探訪」である。居留地が整備されて以降、南山手地区及び隣接する海岸寄りの小曽根、松が枝町の一部は大浦川対岸の東山手地区と並び、外国人居留地の歴史を受け継ぐ地域として平成3(1991)年に国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。また、令和2(2020)年には国の「地域における歴史的風致の維持向上に関する法律」(通称:歴史まちづくり法)に基づく「長崎市歴史的風致維持向上計画」の認定を受けた重点地区となったほか、翌令和3(2021)年には、官民協働の組織である「長崎居留地歴史まちづくり協議会」と長崎市が連携して将来像を示す「長崎居留地歴まちグランドデザイン」を策定、令和5(2023)年にはより具体的な取り組みをまとめた「長崎歴まちアクションプラン」へと発展している。
集合:中華料理店「四海樓」前
集合場所は長崎ちゃんぽんと皿うどん発祥の店とされる中華料理店「四海樓」前の広場である。案内人である(一社)長崎県建築士会長崎支部から7名、各都市から8名が参加し、まち歩きがスタートした。

「長崎居留地の多くは埋立てと造成によって造られてきた。造成地はおよそ東京ドーム2.5個分にも上る。平地は一等地(年間125万円/100坪)として商業や官公庁施設が並び、山手地区は居住地となってきた。今回は山手地区内の新旧の建物と坂に着目しながらまちを巡っていく。」(鯖江康裕氏)
大浦天主堂
『グラバー園』へと続くグラバー通りを上がり、はじめに向かったのは「大浦天主堂」(国宝及び重要伝統的建造物群保存地区内の伝統的建造物(以下:伝統的建造物と記す))である。

「『大浦天主堂』は国内に現存する最古級のカトリック教会堂であり、長崎駅近くの西坂上にある日本二十六聖人殉教地を向いて建てられたとされている。建築的特徴としては、ゴシック様式で中央に八角柱の尖塔を一つ備えている。内観は『こうもり天井』とも呼ばれるリブ・ヴォールトで、施工者である小山秀之進が日本の伝統建築で使用される竹・土・漆喰を応用して曲面を再現しており、当時の職人の技術力を感じる。」(有馬一郎氏)
ホテルインディゴ長崎グラバーストリート
「グラバー園」への入り口を通り過ぎ、次に向かったのはホテルインディゴ長崎グラバーストリート(旧マリア園 伝統的建造物)。

ホテルとして使用されている建物は、明治31(1898)年にフランス人修道士セネンツの設計により港を見下ろす南山手の丘に建設された。女子教育を進めた長崎初のミッションスクールが開設され、第二次世界大戦後の接収・返還を機に戦争孤児等を迎えた児童養護施設「マリア園」として使用されてきたが、同施設の移転を機に森トラスト(株)が土地・建物を取得し、ホテルとして歴史的建造物の保全・活用を図っている。今回はホテル側のご厚意でレストランとして活用されている旧聖堂内も見学させていただく。

「旧聖堂内のステンドグラスの多くは復元だが、2か所に建設当時のものが保存されているほか、レストラン上部の個室には煉瓦の壁面も見ることができる。また、ホテルエントランスに至る石畳は、かつての石畳を取り外し、外構工事の際に再度敷かれている。」(鯖江氏)
外観的な特徴としては赤レンガの外壁、アーチ型の窓、内観的な特徴としては旧聖堂内のリブ・ヴォールト天井やステンドグラスが挙げられる。築130年近い煉瓦造の外壁を活かすため、屋根を外し、一部を鉄骨軸組に変更して耐震性を高める工事を行っているほか、屋根や木製建具の復元を行っている。

ドンドン坂
ホテルの隣には港を見下ろす「ドンドン坂」がある。名前の由来は雨が降ると水がどんどん流れる音がした坂とのことで、急斜面に造られた居留地の歴史を垣間見られる場所となっている。坂の脇には切石をV字型に突き合わせた居留地時代の側溝も残る。

この時点でもかなり上がってきたように感じたが、一行はホテル裏手の斜面を更に上がって「グラバースカイロード」へと向かう。長崎市の山手地区では階段を踏み外さないよう、一段毎に白線が引かれている。

グラバースカイロード
「グラバースカイロード」からは、南山手の斜面を背に、対岸の東山手に聳える活水女子大学や長崎駅付近の景観が一望できる。雄大な景色の前で記念撮影を終え、グラバー園に隣接して建つT.グラバーの弟A.グラバーの邸宅「長崎市南山手レストハウス」(伝統的建造物)へと向かう。同施設は長崎市が土地及び建物を取得、3年の歳月をかけて復元整備を行い一般公開されている。

南山手レストハウス
「『南山手レストハウス』は、単なる西洋建築の模倣ではなく、諸室の周りにテラスが設けられた日本の縁側のような開放的な空間等『長崎の気候にどう適応させるか』、砂岩系の天草石と木柱、石柱による連続アーチ等『日本人大工がどのように技術を結集したか』が感じ取れる建物となっている。」(三百合氏)

祈念坂
ここから「大浦天主堂」の脇を通る「祈念坂」を下る。ここには、オランダ人技師であったJ.H.ハルデスが指導した初期の国産レンガ「ハルデス煉瓦」の壁面が残っている。

「『ハルデス煉瓦』は煉瓦を焼き上げる焼成が難しかった時代の煉瓦で、一般的な煉瓦と比較してその薄さに特徴がある。薄っぺらい見た目から『こんにゃく煉瓦』とも呼ばれる。この煉瓦壁には、製造者や職人を表す刻印が押された煉瓦がいくつか確認できる。」(鯖江氏)

南山手地区町並み保存センター
「大浦天主堂」前に戻ってきた一行は「国際あいさつ通り」を抜け、「南山手地区町並み保存センター」(旧ウォーカー邸 伝統的建造物)へと向かう。同邸宅は、グラバー園通りの途中に英国商人W.ウォーカーの邸宅として建設された。後に医師の雨森氏が所有、長崎市が寄託を受け、現在の場所に移築・復元されている。

ここでは、南山手地区町並み保存会の高木会長から取組の解説をいただく。
「自分も祖父の代から長崎に住んでおり、その関係で洋館を住み継いできたが、職人の減少や維持管理に係る費用に苦労している。元々学校の教員をしていたが、『居留地』を知っている子どもが少ないことに課題意識を持っており、次世代教育に力を入れている。『グラバー園』の整備前を知っているが、かつてはグラバー邸しかなかった。周辺で解体される洋館を市が引き取り解体移築して『グラバー園』となっている。それだけ、歴史的建造物を残していくのは難しい。継承されてきた歴史資産のおかげで世界遺産になったが、大きな経済効果を生んでいる。古い家は放置しておくと朽ちて壊されてしまう。だから守っていかないといけないと思っている。」(南山手地区町並み保存会会長 高木久人氏)

ここまで歴史的建造物を中心に見学してきたが、最後に南山手地区の歴史的景観を再解釈して建てられた「ヴィラ・コモン南山手」へと向かう。同施設は、1階に福祉事業所が入居する多機能型高齢者専用分譲マンションとして、平成25(2013)年に千葉学建築計画事務所の設計で建てられた。
ヴィラ・コモン南山手
「『ヴィラ・コモン南山手』は、歴史的地区である南山手の環境に配慮しセットバックして建てることで手前に空間を設け、建物に切れ目をつくることで、ボリューム感を抑えている。」(池田剛氏)

感想共有
まち歩き後は、同施設の1階に入居するカフェレストラン「KIZUNA」にて、ケーキと珈琲をいただきながらテーブルごとに分科会3の感想共有が行われた。参加者からは、伝統的建造物群保存地区内の伝統的建造物だけでなく、質の高い歴史ある建物をどのように将来に引継いでいくのかといった課題、最近増えてきている民泊の可能性と課題等が上がった。

筆者としては、今回のまち歩きを通して印象的だった点が2つある。一つは、保存(保全)活用されている歴史的建造物やその庭園だけでなく、石畳の舗装、居留地時代の側溝、居留地の敷地境界を示す境界石、煉瓦や石の擁壁等の環境物件が混然一体となり形づくる地区内の魅力である。例えば居留地時代の境界石脇には「この石標柱は長崎居留地時代の遺構です・大切にいたしましょう。 長崎市教育委員会」と記されたプレートが設置され、往来の人々が目を留める工夫が施されている。

二つ目は、南山手地区町並み保存会が行っているような、居留地について子どもたちに関心を持ってもらうための次世代教育である。地域への愛着を育むことの必要性は多方面で言われているが、伝統的建造物を守っていくことの大切さにクローズアップした事例は多くないように思う。こうした建物を守っていくことが地域への愛着を育み、ひいては世界遺産へとつながるという長崎の一連の取組には学ぶことが多いと感じた。
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