三浦半島北西部に位置し相模湾に面した葉山町は、その温暖な気候と風光明媚な土地柄もあり、明治以降皇室をはじめ、華族や文化人たちの多くが別荘を構える湘南屈指の別荘地となってきた。今回の歴飯は、隣町逗子市に近い堀内地区の一画に旧邸宅を活用したウェディング・レストランがオープンしたと聞いて、訪ねてみた。
相福寺脇の細い路地を入っていくと、大屋根のある洋館が見えてくる。昭和7(1932)年に企業の取締役宅として地元の大工によって建てられた邸宅は、洋館に併設して和館を持つ和洋併設住宅であったそうだ。以前は撮影等のスタジオとして使用されており、時折テレビドラマ等にも登場していたが、令和5(2023)年1月にレストランを併設したウェディング会場「R・CASA」としてオープンした。
路地に面した立派な門から敷地に入ると、正面に大屋根の洋館、これに接続するよう左手に和館が配置されていている。洋館の屋根はフランス瓦(洋瓦)、外観はスクラッチタイル張りであることからも昭和初期の建築の特徴を見て取れる。正面は凡そ60度の傾斜の大屋根に相似した玄関ポーチが付き、半円アーチとアーチ上の灯具がクラシックな洋館の雰囲気を演出している。玄関ポーチ右手にはやや張り出しの浅いベイ・ウインドウ(出窓)が付く。アーチをくぐり邸内に入ると、玄関タイルは50mm角のモザイクタイルで模様を描いており、細部にまでこだわった造りが素敵である。邸内に入ると直ぐに和館部分のレストランに案内される。和館の建具屋縁側、床の間はそのままに天井を外し梁を露出させ、シャンデリアを吊るした内部は、和洋折衷を感じさせる同邸の雰囲気を崩しておらず、素晴らしい設計となっている。
今回は昼時の来訪だったこともあり、ランチコースを注文した。ランチはコース1択のみの営業となっており、メインのパスタかリゾットを選べるほか、魚や肉料理を別途注文できるようになっている。前菜のイクラ、クリームチーズとみかん、マグロのミニ軍艦は、小さな見た目とは異なり、もっちとした食感に魚介の旨みをしっかり感じることができ、満足感がある。
2品目は鎌倉野菜と地魚(この日は「ほうぼう」)のカルパッチョである。しっかりと歯ごたえのある白身のほうぼうに鎌倉野菜の風味が良く合っていた。メインとして提供されたリゾットは、目の前で鰹のだし汁をかけて提供される。意外な組み合わせに驚いたが、クリーミーなリゾットに優しい風味の鰹出汁が効いており、少しずつ崩しながら食べ進めると口いっぱいに濃厚な旨みが広がる。食後には、ミニデザートとカフェ(珈琲か紅茶)も付いてくる。葉山在住のシェフが地元の食材を厳選して提供しているとのことで、葉山の味を堪能できるのも魅力である。
近くには[歴飯_108]楚々soso HAYAMAや[歴飯_112]Days386、[歴飯_21]永楽家が点在しており、葉山の歴史を感じることのできる屈指の文化ゾーンにもなっている。非日常を感じる葉山の旧邸宅で、別荘時代に想いを馳せてみてはいかがだろうか。
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