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[コラム]関東大震災100年 | 00 - 横浜の震災遺構 - 復興の記憶を辿る - ぼうさいこくたい2023連携企画【THE HERITAGE TIMES YOKOHAMA KANAGAWA】

更新日:2023年8月26日


「兵隊山ヨリ展望」(出典:横浜市HP)


安政6(1859)年の開港に伴い整備された開港場として発展を遂げてきた横浜の街。古い写真や絵ハガキに写った港や山手の丘は、西洋館や外国商館、教会に彩られ、さながら日本の中の小さな外国のような街並みであった。こうした街並みも大正12(1923)年9月1日に神奈川県西部相模湾内を震源とした関東大震災とその後の火災により、壊滅してしまうのである。令和5(2023)年は、未曾有の被害をもたらした関東大震災から100年の節目を迎える。

THE HERITAGE TIMES YOKOHAMA KANAGAWA ではこの期に、横浜市内の震災遺構、震災復興期の歴史的建造物に着目し、また、こうした歴史的建造物を後世に渡り遺していくための防災に関する取り組みについて、その一部を紹介する特集コラムを連載することとした。


ここで震災直後の横浜について書かれた報告書や新聞記事からその被害状況を抜粋して紹介したい。


 

『横浜市震災誌』

「帝都の關門の、本邦随一の輸出港として、繁栄を誇った横濱市、一夜の中ちに灰燼に歸して、焼野を現出したことは、實に遺憾なことであった。(中略)異国情緒の漲つてゐた山下町山手町一帯も、會社商社軒を並べ車馬の交通が盛んであった商業中心の關内各街も、市民行樂の巷であつた伊勢佐木町界隈も、悉く消え失せて、残るは僅かに神奈川・子安の高臺、久保山の高臺、藤棚方面、中村町の高臺、岡村・弘明寺・井土ケ谷方面・浅間町・軽井澤方面・磯子・瀧頭・堀ノ内・根岸・本牧の高臺等、場末又は丘陵地の街々ばかりではあつたが、その廻りも全潰れ、半潰れの家屋が多く、満足の家屋は數ふる程しかなく、横濱はまるで黒船来航以前一漁村の横濱に歸つたやうな寂しさがあった。」


 

『大阪朝日新聞』1923.9.9

「横浜平沼にあるスタンダード石油タンクの猛火は八日に至るも鎮火せず黒煙濛々として物凄じきばかりである、又根岸方面では刑務所を開放したが囚人の約半数は今尚お帰らず税関倉庫、横浜倉庫等の在貨は掠奪に遭ったが六日来其の筋の取締で漸く平静に復した(東京電話)」


 

関東大震災の記憶は年々風化してしまっているが、横浜の街を歩くと、今も震災当時の被害を物語る震災遺構に出会う。例えば、多くの来場者で賑わう赤レンガ倉庫の脇には、震災で倒壊した旧横浜税関事務所の煉瓦遺構が、横浜市庁舎の地下には関東大震災により隆起した地層の断面が展示されている。フランス山公園下や外国人墓地脇のブラフ積擁壁にある所々黒くなった跡は、関東大震災時の火災によるものとされている。



ここで震災復興とこの時期の横浜の街並みについて触れておきたい。現在の横浜市中心部を彩る歴史的な建築や橋梁は関東大震災復興期に造られた物が多い。その多くは、スクラッチタイルやテラコッタの外壁、幾何学的なパターンの装飾、角に設けられた開口部等、「アール・デコ」と呼ばれる様式の特徴が見られる。横浜情報文化センター(旧横浜商工奨励館)やホテルニューグランド旧館はその代表格と言えよう。この時期に建設された横浜市主導の公共建築を設計したのは、山田七五郎率いる横浜市建築課である。公共建築の需要が高まった大正11(1922)年に発足した営繕課だが、翌年に発生した関東大震災により、意図せずそのスタートは復興業務が中心となっていく。また、震災復興期の山手の丘には、震災により離れてしまった外国人を横浜の街に呼び戻すための外国人向け賃貸住宅が整備された。



こうした震災復興期の歴史的建造物をはじめ、横浜の発展を見守ってきた歴史的建造物を後世に遺していく取り組みも拡がってきている。建築基準法や消防法など災害を経る度に改正されていく関係法令の中で、適法性も確保しながら歴史的建造物が持つ風情やその景観を害することなく、震災や火災へ備えていくには知恵や工夫も必要となっている。

是非今回の特集コラムをとおして、災害の被害や備え、歴史的建造物を後世に遺していくための工夫について関心を寄せていただけると幸いである。


【参考文献】

  • 『横浜市震災誌』,1926,横浜市役所,横浜市立図書館デジタルアーカイブ「都市横浜の記憶」

  • 『古き横浜の壊滅―アメリカ人の震災体験』 , 1976 , 有隣新書 , O.M.プール著 , 金井円訳

  • 『大阪朝日新聞』,1923.9.9,神戸大学附属図書館デジタルアーカイブ「新聞記事文庫」


この特集については、9/17-18横浜国立大学を会場に開催される「ぼうさいこくたい2023」にポスター出展する予定。(コラムタイトルは仮題)







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