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[開港5都市]景観まちづくり会議2021長崎大会-06 分科会⑥港市長崎を「土木」で巡る旅【THE HERITAGE TIMES YOKOHAMA KANAGAWA】

更新日:2022年9月11日



令和3(2021)年11月21日(土)、「開港5都市景観まちづくり会議2021 長崎開港450周年記念大会」2日目の朝は、10の分科会に分かれるエクスカーションで始まる。

THE HERITAGE TIMES YOKOHAMA KANAGAWAは、そのうち


①営みとつながりが創る 新しい居留地物語~長崎居留地のグランドデザインをめぐる旅~

⑥港市長崎を「土木」で巡る旅

⑧「裏長崎」で「まち登山」~長崎アソビのニューノーマル~

⑨茂木地域まるごとホテルプロジェクト構想の未来を描く~アルベルゴ・ディフーゾを目指して~

の4コースに参加した。


<分科会⑥>

分科会6のテーマは港市長崎を「土木」で巡る旅。港を中心に発展した「長崎」に今なお数多く残る土木構造物。これらの土木構造物を水面から、地上から、空中から巡る、通常では体験できないツアーとなっている。非日常空間から、通常の長崎観光とは全く異なる長崎の景観を体感し、新たな魅力の発見が期待される。


<中島川シーカヤック>


午前8時30分に袋橋に集合。集合場所で待っていたのはこの分科会の案内人、江口忠宏氏(DEJIMABASE)、シーカヤック長崎のインストラクター岩永俊秀氏(シーカヤック長崎)、長崎さるくのガイドの田中潤介氏(長崎コンプラドール)。

袋橋は中島川に架かる歴史的な石橋の一つで、有名な眼鏡橋の一つ下流に架かっている。架設年月、架設者とも不詳。一説には欄干親柱の擬宝珠造りからみて寛永11(1634)架設で、中島川下流の石橋アーチ橋郡では、眼鏡橋に次ぐ古ものと推定されている。昭和57(1982)年7月の長崎大水害により半壊したが、原型に復元された。袋橋の石造りの単一アーチは、かなり滑らかな弧を描いており、扁平な造りとなっている。

「袋橋」の名称は、旧町名「袋町」に由来。刻まれた文字は、名付け親である西道仙の筆によるものだ。長崎市指定有形文化財。




最初に15分ほどカヤックの漕ぎ方などレクチャーがありいよいよ出発。カヤックは二人乗り。開港5都市らしく5都市シャッフルでペアを組み、神戸市の方とペアで乗った。2人ともシーカヤックは初心者。最初はひっくり返ることも心配していたが、風もなく、水面は落ち着いていて、乗ってみると予想以上に安定していた。1、2、1、2とかけ声を合わせてゆっくり進めていく。こういう交流ができるのも開港5都市ならでは。 振橋を過ぎたあたりで前のカヤックが止まっていた。何かと思い近づくと、上の橋を路面電車が通りすぎる。このポイントは唯一路面電車が下から見られる場所になっていて、これもシーカヤックツアーの醍醐味。



行きは上流から下流に向かって進んでいるので漕がなくてもゆっくりと進む。途中には川が浅い場所がありコース取りを楽しみながら進む。 カーブの先に出島と一緒に見えてきたのは国登録有形文化財の出島橋。元々は中島川変流工事の際、アメリカから輸入され、明治23(1890)年に河口へ架設された新川口橋を、明治43(1910)年に現在地へ移設したもの。部材がボルトで接合された鉄製プラネットトラス橋で、創建当時の部材を使用している。現在供用中の鉄製道路橋では日本で最も古い橋である。



さらに先に進むと、目の前に出島表橋が現れる。 出島表橋は史跡保護等の条件から力をバランスさせ片側で33.3mを支えるという構造。遠景からは歴史の風景と調和し、人が触れる細部に至るまで丁寧にデザインされている。さらに、その橋を市民と共に架けるため、設計〜運搬~架橋~完成までのプロセスをデザインし、5,000人を越える市民が見守る中、架橋を街の祭りごととして成立させた。完成後も、市民と共にメンテナンスする活動を継続し、街の資源として橋への愛着醸成へつなげている。現代のインフラの新しい在り方をトータルでデザインしていく手法は高く評価され様々な賞を受賞している。 水面の高さから見ることができる出島橋は、河川内に橋脚を立てないことを条件に建てられた出島橋は、水面の高さから見ると片持ちの構造で流線形のデザインが、出島に配慮されたデザインであることがよくわかった。



ツアー一行はさらに漕ぎ進み、中島川の河口に架かる大波止橋に。ここを潜ると長崎港が眼前に広がる。

出島ワーフは、日蘭交流400周年を記念して、長崎港ターミナル近くに平成12(2000)年にオープンした、2階建てのレストランやショップなどの専門店が揃う大型複合商業施設。海に面した150mのウッドデッキを備えている。港の水面からは海に面した出島ワーフの賑わいを感じることもでき、遠くの三菱長崎造船ジャイアントカンチレバークレーンも見ることができ、新鮮であった。



帰りは川の流れに逆らって上るので、行きとは違い力強く漕ぎ続ける必要がある。

終着地である袋橋まで戻ってくると、目の前には眼鏡橋が。袋橋越しの眼鏡橋を望めるのも水辺ならではの景観だった。

今回体験した「中島川シーカヤック」は、常設でツアーを実施している。袋橋(眼鏡橋の一つ下流の橋)から中島川河口まで1km往復2kmの行程で、距離は短いが見どころ満載。お薦めのコースである。



<橋梁さるく>

シーカヤック体験の後は、中島川橋梁さるく。

中島川は何回か水害にあっており、川の拡幅工事が行われているが、眼鏡橋や袋橋など歴史的橋梁のサイズを変えることができないため、両岸に暗渠でバイパスを通し、その上を公園化している。シーカヤックではこのバイパスも一部見ることができた。

ツアーのプログラムではないが、公園では長崎名物チリンチリンアイスがあったのでおやつタイム。目の前でアイスをバラの花のようにきれいにコーンに盛り付けてくれた。


眼鏡橋より上流は水害や拡幅工事の影響で多くの橋が架け替えられているが、どの橋も歴史を感じる橋ではあり長崎の歴史の深さをうかがえる。

新しく架け替えられた橋にも宝珠付きの親柱のデザインにするなど周囲の橋への配慮が感じられたが、橋のサイズが変更になると同じデザインの復元ではプロポーションが崩れてしまうという残念な部分があった。こういった観点からも出島表門橋の突出したデザインの良さがうかがえる。



<ランチ 慶華園>

ランチは慶華園で長崎名物皿うどんかちゃんぽんを選ぶことができたが、慶華園の特徴として皿うどんはパリパリ細麺、独特触感の中麺、ちゃんぽんの麺を用いた太麺の3種類から選択可能。太麺・細麺が選べるお店は多いが、中麺があるお店はあまりないらしく、中麺の皿うどんをいただいた。運ばれてきた料理を食べ進めるとボリュームがすごい。具もたくさん入っていて、カヤックとさるくで疲れた体を満たしてくれた。



<本河内水源地水道施設>

昼食後は、国の重要文化財に指定されている中島川上流の本河内水源地水道施設を見学。

本河内水源地水道施設は、長崎市内を貫く中島川の上流に築かれた上水道施設で、明治24年(1891)に整備された高部貯水池の堰堤(えんてい)と配水池、同36年(1903)の拡張工事による低部貯水池の堰堤などからなる。

幕末に外国人居留地が建設され、海外との貿易による海外文化の流入と共に、伝染病の流入も多く、水道設備の必要性が提唱され、長崎水道(本河内高部堰堤)が、横浜・函館に続いてわが国3番目の近代水道施設として建設された。長崎水道は、日本人(吉村長策)の設計・施工による最初の近代水道施設である。その後、人口増加などにより、長崎水道拡張がなされ、本河内低部堰堤が造られた。

高部堰堤が堤長128mの土堰堤(どえんてい)で築かれたのに対して、堤長131mの低部堰堤では重力式コンクリート造が採用されている。

本河内水源地水道施設は、わが国における最初期の近代水道施設であるばかりでなく、貯水池を備えた水道施設のはじまりであり,水道史上価値が高く、先駆的土木技術を駆使した我が国最初期の近代水道施設といえる。



<女神大橋登頂>

午後のメインは女神大橋の主塔登頂。このツアーはまだ一般化されておらず、開港5都市長崎大会のための特別なツアー。

女神大橋は長崎港の入口にある斜張橋。大型クルーズ船の出入りのため、水面からの高さ65mは日本一。車道部にある狭い入り口から主塔に入り、一列でしか登れない約600段の階段を登り、水面からの高さ約175mを目指す。



中間地点の水平梁部では一度主塔から出て外を眺めることができた。すでに中間地点で車道部から約53m上空。水平上部から見ると、真っ白な躯体にケーブルがきれいに並び、斜張橋としてのこの橋の美しさが際立って見えた。女神大橋のデザインは大野美代子氏。横浜を代表する斜張橋・横浜ベイブリッジのデザイナーでもある。

さらに階段を上りついに主塔部に登頂。車道部から約30分かかった。あいにくの天気だったが、グラバー邸、稲佐山など長崎市が一望できた。天気がよければ軍艦島まで見えるとのこと。

女神大橋は長崎県道路公社の管理だが、インフラツーリズムのハンドリングを民間に委託している。研修を受けた民間会社が柔軟なツアー運営をすることができ、管理者も施設管理に専念できる手法として参考になる事例である。今後一般に開かれたツアーが実施されることを期待したい。



<小菅修船場>

最後は世界遺産の小菅修船場を見学。薩摩藩の小松帯刀と五代友厚がグラバーとともに明治元年に建設したドックである。日本最初の近代的ドッグで、船を引き揚げる滑り台の部分がソロバン状に見えるため、通称「ソロバンドック」と呼ばれている。日本最古の煉瓦造建造物である捲き揚げ小屋内に設置されたボイラー型蒸気機関で船を引き揚げていた。



世界遺産普及の目的もあり、ボランティアガイドの方が悪天候にも関わらず現地に待機し、一行を快く熱のこもったガイドで迎えてくれた。ここは長崎市の中心部から少し離れているが、一見の価値あり。ぜひ訪れていただきたい。



街中のシーカヤックツアーは初めてだったが、水辺での気持ちよさを感じられた。シーカヤックでは水辺から、女神橋では水面175m上から長崎を見るというのはこのツアーならではの視点であり、土木構造物に着目したツアーでこれだけ面白味のあるツアーを構成できる長崎の観光に、ますます期待を感じた。土木構造物は歴史の長い開港5都市ならではの保存・活用が行われている事例も多く、今後も注目していきたい。


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