<開港5都市景観まちづくり会議>
開港5都市景観まちづくり会議は、安政の修好通商条約により日本最初の開港地となった5都市(函館、新潟、横浜、神戸、長崎)の市民団体が集い、景観、歴史、文化、環境などを大切に守り、愛着をもって育て、個性豊かで魅力あるまちづくりを行うため、互いにに交流を深め、情報交換を行い、課題を共有、協議する場として平成5(1993)年、神戸市から始まった会議である。
その後、毎年各都市において順(神戸 - 長崎 - 新潟 - 函館 - 横浜)に会議が開催され、その成果はそれぞれの活動に活かされ、市民団体相互の交流も盛んに行われるようになっている。
横浜も第1回大会から参加しており、第5回(1997)、第10回(2004)、第15回(2009)、第20回(2014)、第25回(2019)大会を地元で開催し、各都市の市民団体を迎え、交流を続けてきた。
会議名は「景観まちづくり」となっているが、景観やまちづくりに特化していない多様な市民活動も対象としており、その中でも「歴史を生かしたまちづくり」は、重要なテーマの一つとして、各大会において分科会等で取り上げられてきた。
今年、令和3(2021)年は、元亀2(1571)年の開港から数えて450周年を迎える長崎で開催予定となっている。
参加者募集のリーフレットによると「ポストコロナ時代の「港」を生かしたまちづくり~歴史・つながり・未来~」を全体の大会テーマとし、令和3(2021)年11月20日(土)〜22日(月)の日程で、シンポジウム、10コースのエクスカーション(分科会)などが実施される予定となっており、今後の横浜・神奈川の歴史を生かしたまちづくりを伝えていく上でも、参考となる議論や事例の紹介も期待される。
そこで、THE HERITAGE TIMES YOKOHAMA KANAGAWA も歴史を生かしたまちづくりをテーマとした市民webメディア団体としてこの会議に参加することとした。
今後、この大会を通じて、横浜と同じ「開港の地」である各都市の「歴史を生かしたまちづくり」に関する情報を皆様にお届けしたいと考えている。
<開港5都市長崎とは>
元亀2(1571)年にポルトガル人の来航により開港、鎖国時代の200余年を通して、わが国唯一の幕府公認の対外貿易港として繁栄した。令和3(2021)年に開港450周年(開港記念日:4月27日)を迎える。
居留地は、丘陵地の造成や、海岸の埋めたてにより8地区に分散して整備され、海岸に近い方から上等地、中等地、下等地に分けられていた。上等地には貿易のための商社や倉庫が、中等地にはホテル、銀行、病院、娯楽施設が並び、眺望のよい山手の下等地には洋風の住宅、領事館、学校が建てられていた。
現在でも、東山手・南山手地区を中心に洋館、石畳、石段、側溝、樹木など、居留地時代のたたずまいを留めており、こうした歴史や景観を市民自らが紹介し案内するまち歩き観光「長崎さるく」を契機として、市民によるまちづくり活動が活発になっている。
写真提供:長崎県観光連盟
<長崎市の景観まちづくり・歴史を生かしたまちづくり>
長崎の歴史的景観を含めた景観の保全創造に対する取組は早く、旧条例「長崎市都市景観条例」を、全国に先駆けて昭和64(1988)年1月1日から施行し、平成16(2004)年に施行された景観法に準拠するかたちで平成23(2011)年4月1日に改正施行している。この改正に合わせて、旧条例に基づく「長崎市都市景観基本計画」も、長崎市の景観づくりを総合的かつ計画的に進めるための理念や方針を示すマスタープラン「長崎市景観基本計画」として改正施行された。
基本計画は、「多彩な物語を育む長崎の景観づくり ~みんなで語りつぐ海・まち・里・山の風景〜」を基本理念とし、「基本方針1 魅せる大景観づくり」など5つの基本方針が示されているが、歴史を生かしたまちづくりについては主に、その中の「基本方針2 個性を磨く景観づくり」の中で「2-1 特徴ある歴史的な資源や地区を活かす」ことが方針として示されている。
また、「2-2 地域性が感じられる産業景観を活かす」においても「我が国における産業の近代化に寄与した炭鉱や造船など、近代化産業遺産の景観」について、さらにその魅力を伝えるために「2-3 回遊性をつくる」ことに触れているのも特徴の一つと言える。
平成23年度からは景観法に基づく「景観重要建造物指定制度」の運用も始まり、現在までに「池上正則氏住宅」など22件が指定されている。
歴史を生かしたまちづくりに特化した計画としては、「歴史まちづくり法」に基づき、まちづくり行政、文化財保護行政、観光行政及び市民が連携、協働して、長崎市の歴史的風致を守り育て、次世代へと継承していくことを目的として、「長崎市歴史的風致維持向上計画」が策定され、令和2(2020)年3月24日に国から認定を受けている。
長崎市はこのほかにも先進的な夜間景観に関する計画も策定し、夜間景観整備事業にあたっては世界的な照明デザイナー面出薫氏を監修に迎え主要施設のライトアップを進めた。
さらに、大型公共施設の総合的なデザイン調整や研修、フィールドワークなどを通じた技術系職員の意識と技術の向上を目的として「景観専門監」を置くなど、総合的な取り組みを推進しており、景観行政のトップランナーと言える。その中でも「歴史を生かしたまちづくり」の取り組みは、中心的な位置を占めている。
<2つの世界遺産があるまち>
平成27(2015)年に「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」が、平成30(2018)年に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界遺産に登録され、長崎市は「2つの世界遺産があるまち」となった。
「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」は全国8県11市の23件の構成資産のシリアルノミネーションで世界遺産価値を証明しているが、そのうち「小菅修船場跡」「高島炭坑 北渓井坑跡」「端島炭坑」「旧グラバー住宅 」、長崎造船所「第三船渠」「ジャイアント・カンチレバークレーン」「旧木型場」「占勝閣」の8つの資産が長崎市内にある。長崎造船所関連資産は稼働遺産であり、稼働遺産を含む世界遺産は日本で初となった。
「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」は長崎県と熊本県に残る12件の構成資産で世界遺産価値を証明しているが、そのうち「大浦天主堂」「外海の出津集落」「外海の大野集落 」の3つの資産が長崎市内にある。
このことからも、いかに長崎市が特異かつ重層的な歴史をまちづくりの中で残し生かしてきたかを知ることができる。こうした、歴史的な資産がどのようにまちづくりの中で生かされてきたのかということにも注目したい。
<市民団体:null / 長崎都市・景観研究所>
こうした長崎市の景観まちづくりに積極的に参加している市民活動団体の一つが、長崎市景観まちづくり連絡協議会に所属し、開港5都市景観まちづくり会議長崎大会実行委員会の構成団体にもなっている「null / 長崎都市・景観研究所」である。
「null / 長崎都市・景観研究所」は、「長崎のまちの価値を0から見つめ直す」ことをコンセプトに、平成22(2010)年4月に設立。まちづくりの提案を始め、イベントの開催、まちづくり拠点の運営など長崎を元気にする取組みを続けている。
同団体の平山広孝所長は長崎市役所の職員でもあり、公的な立場、私的な立場の両方の立場でまちづくりにコミットしている。さらに、開港5都市景観まちづくり会議においても、各都市の若手参加者に呼びかけてFG(Future Generation)会議を立ち上げた。
開港5都市景観まちづくり会議長崎大会では、こうした長崎で活躍する団体が、分科会を担当することから、分科会のレポートとともにそうした活動団体の素顔にも迫りたい。
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